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9.


「ポマード苦手じゃないの?」

『苦手だったわよ、1979年の頃は。でも、時代が変わって、ポマードって若い子達には馴染みが薄くなっちゃって…。苦手を通り越してむしろ懐かしくなってきちゃったの』

「そんな裏情報いらない」

『ほら、あるじゃない。昔は好きなヒーローアニメを暫く見なくなって、大人になって改めて見たら妙な感慨に浸っちゃうあれ』

「いや、それとはかなり違うから」

そもそも登場した頃である1979年から今まで頑張ってきた彼女すごい。時間に流されて薄まって消えた都市伝説も多いのに、約40年経ってなお活動を続けているのってすごい。

プロ精神感じちゃう。

意外と会話ができちゃったことに驚いたが、40年経ったけど実年齢いくつですか、なんて口が裂けても言えない。…口裂け女だけに。

「あ、べっこう飴ねだりに来たんだっけ」

『主旨が違う』

「ごめんね、べっこう飴買ってなくて。干し柿ならあるんだけど、…はい。お食べ」

『…ありがとう』

干し柿をパックから出して渡す。

変な表情をすると俺が予想したのに反し、口裂け女は意外とほっこりした目元で受け取った。さすが1979年誕生の都市伝説。お菓子は最近のものより昔ながらのものが好きらしい。

嬉しそうに目元を綻ばせ、彼女は食べるためにマスクを外そうと手にかけたところで硬直した。視線は干し柿に釘付けだが、明らかに戸惑っている。そして、10秒ほどした後、

『ワタシ、綺麗?』

「ここでそれに戻るんだ!?」

『だって食べたら見えちゃうから』

どうする、俺。どうすればいい?

いろいろ時間を稼ぎながら誤魔化してきたけど、もう割と限界だ。ポマードは俺が思い出せなかったどころか本人の口から飛び出し、べっこう飴代わりの干し柿に効果はない。

『綺麗だ』『綺麗じゃない』、どちらを答えてもお陀仏だ。いや、既にお陀仏しているが、だからといって諦めていい問題じゃない。

この初めの質問にも正しい答え方があった気がするが、残念な頭では思い出せない。

期末テストの時よりも稼働している俺の脳内に対して、彼女は既にマスクをズラすだけで、俺に口が見えないように食べ始めている。そんな食べ方があるなら質問を投げないでほしい。

この食いしん坊め。

で、俺が出した結論は、

「可愛いよ」

綺麗かどうかは答えない。

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座右の銘:リア充爆発しろ。
現世への未練:イケメン滅ぼす。