部屋の中をさまよい、物置と化している廊下のクローゼットの下の部分に掃除機を発見した。コンセントを刺し、スイッチを入れる。霊感のない人からは勝手に動く掃除機でしかない。
めちゃくちゃシュールだ。
ソファーでダラけながらポテチを食らうイケメンが、姑(しゅうとめ)みたいに俺を見てくる。今すぐそのポテチをばらまいてやろうか、と考えたが、片付けるのは俺だからやめた。
「そうだ、お前に言っておく」
「んあ?」
「一人の時にインターホンが鳴ったら用心しろ。友達もしおりも俺が連れてくる。回覧板は直接ドアノブにかけてくれる。こんなマンションだから訪問販売とかはありえねぇ」
「…つまり?」
「十中八九よくねぇもんだよ」
ひっ、と喉の奥から漏れる悲鳴。
「昔の異形ってのは恨みがあるやつにしか攻撃しねぇ。だが、最近のやつらは頭をこじらせて無差別になってきやがった」
「あー、確かにね」
真木が立ち上がる。ポテチの袋を置いて、こっちに歩いてくる。勝手に動く掃除機に手を伸ばした真木に、手伝ってくれるのかな、なんて一瞬でも思った俺が本当に馬鹿だった。
真木が掃除機を掴んだ。俺に向け、そして、
「玄関さえ開けなかったら奴らは入ってこない…、……と少しだけ期待している」
「期待!?弱いよ、期待!!」
すぽっ。
俺の尻尾か足の部分が掃除機に吸い込まれた。
「お前ぇええええ!!そのためだけに立ち上がったのか!?はぁあああああ!?」
「でっけぇゴミが浮いてたから」
「こんのドS野郎ぉおおお!!つか、これダイチョンじゃねぇか!!吸引力のすごいただ一つの掃除機で俺を吸うんじゃねぇええ!!」
当たり前だが、掃除機の吸引力はエアコンの比じゃない。しかも、よく外国人がCMをやっているアレだ、吸引力のすごいただ一つの掃除機。
グイグイ引き込まれる俺を見て、真木が最高の笑顔を浮かべる。真木の本性を知らない人なら『甘く蕩けるような』と言うと思うが、俺からすれば『性悪を剥き出しにした』だ。
で、掃除機を止めてくれない。
「とめろやぁああああ!!!!」
「それが人に物を頼む態度か?」
「真木様が聞きたいだけだろお前!!」
それが初めて真木と言葉を交わした月曜日。
ドSの大魔王様と、少しのポルターガイストしか起こせない俺と、台所のアサリ数個の幽霊が魑魅魍魎の都市伝説と死闘を繰り広げることになったきっかけの夜。始まりの夜だった。
(act.1 某消臭剤の実力 終)
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座右の銘:リア充爆発しろ。
現世への未練:イケメン滅ぼす。