ハッとした。
私は何を言っているのだと。
だが、放った言葉を取り消すことができないなら、いっそ言ってしまおうと思った。
「私は君に滑っていてほしい」
ハニーブラウンの瞳が見開かれた。
「これからもずっとだ」
美しい鳥よ、君はこれからも自由に。
拘束の鎖に囚われることなく、地面に堕ちることなく、君が望むままに願うままに自由に氷上の空で舞っていてくれないか。
君の道は君に選択権がある。だが、私には君が本当に諦めたようには見えないんだ。諦めたくないから、手放したくないから、誰かに背中を押してほしいと叫んでいるように見える。
私でいいなら君の背中を押そうか。
「君が滑っている姿は美しい。好きなら、君の思うままに滑っているべきだ」
それでも君が自信を、勇気を持てないなら、
「私のために滑ってくれ」
君の空を私に見せてくれ。
私の言葉に元々丸くなった瞳が、さらに限界まで見開かれた。口を半開きにするその姿に、先程までの尊大さは見当たらない。
驚愕に染まりきった少し間抜けな表情。だが、君は気付いているだろうか。沈みきったその瞳が私の言葉で光を取り戻し、その奥で強い意志の炎が静かに燃え上がっていることに。
氷なんて冷たいものの上に立っているくせに、瞳の奥の炎は火傷しそうに熱い。
きっとその炎が消えることはないだろう。
「観客がいなくて自信がないのかい?私が見ているから、君は心配しなくていいよ」
「おい!貸し切りだって言ってんだろ!人を下手っぴみてぇに言うんじゃねぇよ!人に見せたことはねぇが、俺は下手じゃねぇから!」
「下手っぴ、って可愛いな」
「そこに突っ込むな!」
彼の頬が薄紅色に染まる。
だが、それは絶対に運動のせいじゃないと言いきれる。怒って喚いているくせに、薄く染まった頬を見ると照れ隠しにしか見えなくて、私が笑えば彼は悔しそうに私を睨んだ。
「俺は北條圓(ほうじょう・まどか)。仕方ねぇから、お前を観客1号に認めてやるよ」
「てことは、続けるのかい!?」
「あぁ。お前は特別に一番近くで見ててもいいぜ。…あ、言っておくが、間違っても俺をまどかちゃんとか呼ぶんじゃねえぞ?」
「ありがとう、まどかちゃん!」
「だから、まどかちゃん呼ぶな!!」
君と初めて会った日、言葉を交わした日。
そして、それは私達の恋が始まった日だった。
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。