アルテミスが戸惑いを見せた。
「方法ならあるわ、三つ」
目線だけで催促すれば言葉が続いた。
「一つ。ありのままの寿命を受け入れる。最後は死別だけど一番幸せな選択だと思う」
「ダメだ。彼が怖がってる」
「二つ。あなたが寿命を終えた時、私が雷を殺す。確かに私は光属性だけれど、この矢だけはありとあらゆるものに終焉をもたらせるわ」
「そんなの私が許さない」
「…困った子ね」
「最後の一つは?」
彼女は腰にある剣の柄を指先で撫で、剣を抜いた。普通の剣は鋼で出来ているが、アルテミスが持つ剣は研ぎ澄まされたクリスタルのようで、上品に輝くそれは透明で力強さも持つ。
存在を聞いたことはある。光の女王アルテミスが持つ剣。伝説にも登場するその剣は、世界の理を無視することができるの魔法具の一つだ。
「ルグセルクの剣」
ありとあらゆるものを断つ魔法の剣。
本当にありとあらゆるものを断てるのだ。普通の剣でも斬れるものから脈々と繋がる山脈、昔の嫌な記憶、手放したい縁、通常ならば当事同士が決める契約の絆まで強制的に断ち切ってしまう。
「三つ、これであなたの魂の一部を切り離す」
三つ目の選択肢はこうだった。
まず、ルグセルクの剣を使って私の魂の一部を切り離す。その一部の魂を記憶世界に閉じ込める。
私は魂の一部を失うが、日常生活に差し支えはない。魂が分かれてしまった場合、意識は欠片の方ではなくメインの多い方に宿るのだ。
つまり、私の意識は現実世界にある。
そして、肉体は人間の寿命通りに年を取り、最後は死ぬ。死んだその瞬間、意識は記憶世界に閉じ込めた欠片の方の魂へと移る。ただし、欠片の方の魂は切り離した瞬間から年を取らなくなる。
その記憶世界の中で、ドラゴンの数千年の寿命が終わるのを待ち、遠い未来のとある日に彼の命が最期を迎える時、私も共に消滅する。
ただし、この方法には弊害がある。
一つ、魔力は命の根幹と繋がっており、命の根幹は魂と繋がっている。つまり、間違いなく私のSランク魔力は保てない。今後はAランク程度。
二つ、魂の欠片がいるのは記憶世界であり、死後は一切現実世界に干渉する術を持たない。
記憶世界は切り離したその日を繰り返す。つまり、今日切り離したと仮定して、騎士や使用人達は今日行ったことをただ毎日繰り返し、そこに意識はなければ会話が成り立つこともない。
私が日にちを数えようとメモを残しても、日付が変わる時に全てが一日の最初の状態に戻されるからメモも強制的に消されてしまう。
現実世界でドラゴンが何をしているのかも、国がどうなったかもも分からずにひたすら過ごす。
数千年という時間を。
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孤独が怖い、と君が怯えるのなら、
私は君と最期まで寄り添うと誓おう。