「本当に?彼が私に魔力を?」
「嘘を言ってどうするのよ。聖獣達の苦情を抑えてきたけれど、私ももう限界」
クシャリ、と彼女が手で髪を乱した。
「召喚から雷の王の牽制が伝わってきて怖い、って救助要請が殺到。雷本人に抗議はできなくて、炎は不在、風は関与しないって言ってるし、私と氷と闇が必死に対応したのよ?」
牽制、というのならドラゴンはやはり私に契約してほしくないのだろう。だが、本人に再契約の意志はないと思う。再会して時間は経っていないが、契約を口にする様子はなかった。
なら、どういうつもりで…。
考えを巡らせて、だが、答えが分からなくて、そんな私に彼女が呆れていた。
「とりあえず召喚はもうやめなさい」
「分かった」
「いい子ね」
アルテミスが私の頭を撫でた。長い指が髪を梳く。だが、その繊細な指先が首周りに来て、実は何かを探していることには気付かなかった。
そして、撫でていたのはほんの一瞬。彼女の指先が離れていく頃に、何かの細い糸を絡めていたのは私には見えない。指先を眺めてクスッと笑った彼女に、首を傾げるしかなかった。
「でも、自覚がないのは厄介ね」
「自覚ならあるさ。私は身代わりだ」
「ほら、やっぱりないわ。雷が求愛しているのは初代の坊やじゃなくてあなたよ?」
「求愛って…」
「ったく、何千年も生きてきたのに告白の一つもできやしないなんて…。王の中では若いって言ってもこれには困り果てたものだわ」
アルテミスの言葉を整理する。
ドラゴンは私に魔力を纏わせ、これにより聖獣達が怯えて召喚は全て失敗。今回は迷惑に思った彼女が文句を言いに来て契約はなし。
ドラゴンが好きなのは初代王ではなく私で、つまり、私は身代わりなどではなく彼が口にできなかっただけで、彼は私の召喚や契約を故意に妨害してきた。威嚇、と彼女は言ったのだから。
だが、
「私は初代に生き写しだ」
「そんなのきっかけに過ぎないわ」
「…なら、どうして私と契約しない?」
心に引っかかった疑問。
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孤独が怖い、と君が怯えるのなら、
私は君と最期まで寄り添うと誓おう。