「天空に希望の光と安寧の闇」
多分、何も来ないと思う。
「東に叡智の風、西に勇猛の炎、南に鋭敏の雷(いかずち)、北に慈悲の氷」
それでも、私が召喚を行ったと知ったら、彼は嫉妬したり怒ったりするのだろうか。
「偉大なる六の王達よ、力を求めしことを認めよ。我が力に共鳴せし聖なる獣よ、今こそ我が前に姿を表すことを命ず」
もし、そうならば、彼はどうして私との契約を再び結び直さないのだろうか。私に執着するくせに呼べる名前の一つすら残さない。
「我が名は、カルナダ・セットレイア」
もし、この瞬間、何かが現れて私が契約をしたなら、彼はどうな顔をするのだろう。
だが、何も現れないと知っていた。だって、契約を切ってからの一年間、ずっとそうだった。
私はそんなに聖獣達に嫌われる魔力をしているのだろうか。もし、カイスティンに似ていなければ彼だって契約してくれなかったのか。
思考が暗く沈んでいく。
だが、その瞬間に部屋が光ったのだ。一年間以上も何の反応も得られなかったのに眩しく、目を開くのが困難になるくらい輝く。
優しい光なのに強く全てを照らしていく。床や壁に乱反射して、目を開けていられない。だが、その光はすぐに収まって、次に目を開けた時には部屋の中央に一頭の鹿がいた。
「鹿…?」
角がないから雌鹿だろう。
その雌鹿は私から視線を逸らさないまま、パタリと片耳を動かす。そして、歩み寄ってくる。彼女の足が床に触れる度に小さく光が舞い散って、歩いた跡に光がキラキラと残っていた。
『久しぶりね、坊や。…っていっても、もう坊やって呼べる年でもないのね』
「どこかで会ったことがあるかい?」
『いいえ、ないわ。私が一方的にあなたを見ただけ。あなたの弟が生まれた時に神託を与えたけれど、姿を見せたことはなかったのよ』
「神託。…ということは、」
雌鹿が光る。
そして、その光の中で彼女は姿を変えた。
キラキラ、夜には眩しすぎるほどの光の渦の中で小さな鹿は姿を変え、美しく豊満な女性の姿となっては神々しい笑みを浮かべて見せた。
「光の女王、アルテミス」
[ 11/44 ]
prev /
next
[
mokuji /
bookmark /
main /
top ]
孤独が怖い、と君が怯えるのなら、
私は君と最期まで寄り添うと誓おう。