ベッドに強く押し倒された。
かつては上物だったベッドも歳月により劣化し、二人分の体重にスプリングが悲鳴を挙げる。だが、その高い音が気にならないほど目の前の彼は綺麗で、彼だけに集中してしまう。
ドラゴンの手は私の服を次々に脱がせていく。ボタンが外れて素肌が顕になっていくのを見ながら、彼と温もりを共有できるのは嬉しいのに、それでも口が素直になってくれない。
「いいのかい、私は人の夫だけど」
「だった、だろう?」
「あぁ、…逃げられた」
「いや、君から捨ててやったのさ」
ちゅう、と彼が首筋に吸い付いてくる。
抵抗もせずに受け入れていれば、刺すような小さな痛みを感じた。跡を残された、この場所ならまだ隠せる、だなんて妙なことを考えた。
「エレナは、」
「それ以上あの女のことを言うとひどく犯すからね?言っておくけど、脅しじゃない」
「っ、どうしたんだ。私に縁談が来た時は君だってエレナを気に入っていたじゃないか。淑やかな姫で、悪くない縁談だって、ン、」
首筋にひときわ鋭い痛み。
噛まれた、と分かった途端に鉄錆びの匂いが鼻につく。黄金色の瞳は一瞬で不機嫌になって、責めるように私を睨んでいた。
「状況が変わったのさ。僕だって身を引こうと思った。…だけど、今の君なら僕が我慢する必要はないし、奪っても構わないだろう?」
「我慢…?」
我慢、とはなんだろう。
まるで私が好きだったかのような言い方。
いや、実際に私が好きだったのだろう。その愛情の行く先は私自身の中身ではなく、カイスティンに生き写しの見た目だったが。それで他人の名前を口にしたから嫉妬したのだろうか。
体をまさぐる指先に心が急速に冷えていく気がした。鎖骨を滑っていく柔らかい唇にも、素肌を擽る黄金色の髪にも、愛しさを込めて触れてくる指先にも、心は痛みしか感じない。
再会した時の嬉しさが消えていく。
「嫉妬しているのかい?」
「当たり前だろう」
「…なら、私も嫉妬していると言ったら?」
「え?…カルナダ?」
ほら、私を脱がせるばかりで、君は服を乱すどころか白手袋すら脱いでくれない。
やはり私はカイスティンの身代わりでしかなく、そんな代替品には素手で触りたくないのだろうか。…こんな、私なんか。
[ 9/44 ]
prev /
next
[
mokuji /
bookmark /
main /
top ]
孤独が怖い、と君が怯えるのなら、
私は君と最期まで寄り添うと誓おう。