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3.

エレナは城から去っていった。

この先、彼女と二度と会うことはないだろう。

若い騎士と栗毛の馬に二人乗りをする彼女は綺麗なドレスにではなく、質素な町娘の服に身を包んでいた。そんな服を着ているのは初めて見るのに、今までで一番美しかったんだ。

後ろ姿を見送って、護衛であるレイロに自室まで送ってもらった。道中、どんな表情をして歩いていたかは記憶に残っていない。

「よかったのですか、陛下」

自室に着いて、レイロが問うた。

大きな窓の前に立ち、夜の町を見下ろした。背中を向けていないと、レイロに情けない表情を見せそうで私は嫌だった。

「エレナには幸せになってもらいたい」

「陛下も幸せにできたのでは?」

「私ではあの騎士に敵わないだろう」

レイロに見えない角度で拳を握った。

「私はもう休みたい。さぁ、お前は下がれ、レイロ。明後日の朝には国中に王妃が死んだと公表する。準備は頼んだぞ」

「…御意に」

返事が返ってくるまでの一瞬の空白。

だが、レイロが深く問うことはなかった。

パタン、と背後でドアが閉まる音がする。そして、足音が遠ざかっていくのを聞いて、全身の力が抜けたように傍にあった長椅子に座り込んだ。直後に瞳が潤んで、胸が苦しくなっていく。

(私はエレナを…)

あぁ、そうだ。彼女を愛していた。

妹としてだが、それでも確かに心から。

王冠の重さを担い、イチルが遠方の地に行き、十年間も片想いしていた聖獣との繋がりが切れた。エレナを心の拠り所にしていたが、それも今、私が自ら彼女を逃がして自由にした。

(一人になってしまったな)

…寂しいな。

もう春で、花の蕾も膨らみ始めているのに寒くてたまらなくて指先がカタカタと震える。

こんな時に脳裏に浮かぶのは決まって彼の顔で、だが、鮮やかな黄金色の髪も瞳孔の細い瞳も微笑んだ様子もはっきり覚えているのに、その名前だけが忽然と頭の中から消えていた。

昔は呼んでいたのに。

私が呼んで、彼が応えていたのに。

最愛の人は私と契約を切った。あの十年の思い出も、見慣れた姿も、昇華しきれないまま胸の中で燻る恋心もそのまま残していったのに、名前だけは私から奪いさって残してくれなかった。

いや、文句を言える立場ではないが。

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孤独が怖い、と君が怯えるのなら、
私は君と最期まで寄り添うと誓おう。