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2.

それから数ヶ月。

冬が去り、春がやってきた。

子供達は元気に育ち、エレナの体も回復した。だが、私とエレナの関係は疎遠になっていて、勿論、床を共にしたことも二度となかった。

彼女は優しい。私に笑いかけてくれるし、話も弾む。柔らかく垂れる目尻も、笑うと口元を隠す上品な指先も昔のままだったが、私と彼女の間には間違いなく見えない壁があった。

そして、今日、見てしまったのだ。

エレナと護衛として共に来た若い騎士が手を握り、見詰めあっているのを。瞳に浮かんだ感情に気付かないほど、私は未熟ではない。

20代も半ばを超えた私と、まだ19にも満たないエレナ。割と年の差がある婚姻。

(…手放そうか)

まだ若い彼女には自由に生きてほしい。

夫としてではなく彼女と共に成長してきた兄として、そして、彼女ではない最愛の人を失い、片想いの破れた人の男として、彼女にだけは政略結婚で愛しい人を失ってほしくなかった。

エレナに愛する人がいないなら、仕方なかったのかもしれない。だが、愛しさの溢れる眼差しを見た瞬間、彼女を逃がす決意をした。

「エレナ」

「おやめください、陛下ッ!」

「お兄様、罰は私にください…!」

「荷物をまとめて、夜のうちに城の裏門から出て行きなさい。明後日の朝には王妃エレナが急病により死去したと発表しよう」

「っ、」

「安心しなさい。お前がいなくなっても北の国にはちゃんと誠意をもって接するし、私達の子供も立派に育て上げると誓おう」

彼女と若い騎士がぽかんとする。

だが、すぐに瞳を潤ませては何度も何度も礼を言った。二人は互いを見詰めあって、想いを込めるように強く指を絡ませ合った。

(とても羨ましい)

かつて私にも愛おしい人がいた。

だが、彼が愛していたのは私ではなく、私を通して死んだ恋人を見ていた。彼の傍にいられるだけで満足するべきだったのに、貪欲な私は彼の心を手に入れようとして彼を失った。

寂しい。そして、エレナが羨ましい。

だが、妹を愛する一人の兄として、何としてもエレナには同じ道を歩いてほしくない。

「エレナ。結婚指輪、私のもあげるからもって行きなさい。私にはもう必要ないし、それなりの金になって、路銀の足しになるはずだ」

「…カルナダお兄様」

「さぁ、急ぎなさい」

「お兄様、エレナは指輪を売りません。何があっても売りません。あなたは私の最高のお兄様です。…どうかご自愛くださいませ」

彼女が私の手を両手で握る。

大きな瞳を涙で潤ませ、言った。

「エレナを愛してくださり、ありがとうございました。カルナダお兄様にもご幸運を」

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孤独が怖い、と君が怯えるのなら、
私は君と最期まで寄り添うと誓おう。