12.
プルル、プルル、プルル、
右耳のピアスからコール音が鳴る。
『もしもし、コウさん?』
「おー、榊、掃除終わったのか?」
『はい』
22時52分。ちょうどいい時間帯だ。
ちょっと汚れてしまったアタッシュケースを見て、ティッシュに包まれながらゴミ箱に転がる発信機を見る。またチューインガムのカスがついたアタッシュケースを見てから、汚い発信機を見た。そして、にやりと笑う。
視界の端で尋斗が一歩下がり、寒そうに腕をさすったのが見えたが、何も見なかったことにした。
「榊ぃ、休憩部屋の掃除頼むな。すごい急ぎだからもう休憩なしで入ってくれ」
『分かりました』
「テーブル拭いて、床掃いて、モップがけして、あと窓も拭いてくれ、窓。ゴミ箱のゴミも捨てて、ゴミ出ししておいてくれ」
『え、ちょ、そんなに汚れてましたっけ!?』
「あぁ、汚れてるな。んじゃ、頼む」
『ちょ、コウさ』
ぶち。電話を切った。ちょっとスッキリした。
「嫌な先輩だよねェ、あんた」
「ん?」
「いや、なんでもないよ」
何か言ったらしい尋斗に今日一番の優しい笑みを向けたら、少し引きつった笑みが返ってきた。どうやら何か言ったというのは俺の聞き間違いらしい。
車とバイクを目立たない位置にとめ、廃ビルの中を散策しながら待つことに決めて、まずはポケットから出した飴を口に放り込んだ。
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騙し合うこのゲームは、
本気で惚れた方が負けなのだ。