6.
身も心も騙された俺は、
「お前を傷付けることができなかった」
だが、清宮の腹に思いっきり一発入れたから、恨みも全て晴らしたことにしよう。
「…はぁ。俺は何してるんだろうな。年下で、しかも、受験生に惚れるだなんて、」
「お前が試験監督だって知った時は驚いた」
「やっぱりデータを提出すればよかった、って後悔したんだろ、どうせ」
「いや、真逆だ」
意味が分からなくて清宮を見上げた。
年下の癖に妙に発育のいいこいつは俺よりも頭半分ほど背が高くて、俺の方が見上げることになる。しかも、何かを企んでいるかのような表情は色っぽくて、もはや年下だとは思えない。
月のない夜、遠くの街の光は淡くて清宮の全てをはっきりと見ることはできなかった。だが、清宮が微笑んでいるのは気配で分かった。
「提出しなかった自分を褒めたな。これでコウに本気で愛してるって伝わる、って」
「…正直だな。というか、馬鹿じゃないのか!自分の合否がかかっていたんだぞ?」
「俺がお前より合否を大切にすると思うか?」
そう言われて咄嗟に顔が熱くなった。
迷いが一欠片もないその言葉に、当たり前だとでも言わんばかりの声色に、顔が赤くなっていると思う。暗くて見えないことを祈ったが、清宮が喉を鳴らして笑うものだからバレているんだろう。
顔を隠そうと清宮の胸に頭を押し付ける。そうすれば、大きな手に優しく頭を撫でられた。
「俺を選んだってわけでいいんだよな?」
「っ、そうだよ!俺は最後まで振り回されて、お前の思惑通りに大人しくお前を愛するしかないんだよ!…逃げることは許さないからな」
ふわり、と幸せそうに微笑む気配がした。
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騙し合うこのゲームは、
本気で惚れた方が負けなのだ。