『待ってよ』
俺だって伊達に名家で養子をしていたわけじゃない。どういうタイプの人間が金を求め、権力を求め、名声を求めているのかはよく見てきた。だから、分かったんだ。
彼は、自分のために金を求めているんじゃない。
『そのお金、誰のために使うの?』
こちらに背を向けたホーリエの正面に飛ぶ。
俺の質問にホーリエが顔を強張らせたのが見えたが、急な目眩と共に体から力が抜けてしまって、その場にへたりこんだ。イチルが慌てて駆け寄ってきて、手のひらに乗せてくれた。
(もしかして、また小鳥?)
せっかく成長したと思ったのに。
風の精霊が心配そうにざわついていたが、イチルの手の上で伏せたまま起きようとしない俺は、実のところ体の不調はとっくに消えていて拗ねているだけだった。
『イチル、俺、成長したんだよ?見た?』
「…また縮んだがな」
『やめて。心の傷を抉らないで』
いや、いや、と小鳥では出せない涙を傷付いた心から出して、一通り心ゆくまで駄々をこねた頃にはホーリエに微妙そうな眼をされ、マーメイドに微笑ましそうに見られていた。
空は晴れだしていて、まだ暗い雨雲が残っているものの、ところどころ裂けた隙間からは青色の空が見えていた。最後の魔法で出現した雪がキラキラと反射して光る。
だが、俺の心は晴れそうになかった。
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。