柔らかいクリーム色の髪は美しい白銀へと変わっていた。だが、澄んだアメジストも、誰もが振り返るような綺麗な顔もそのままだった。
前はたくさんあった痣はどこにもなくて、綺麗な肌だ。だが、庇護を必要とする儚い印象はさっぱりと消えていて、代わりに気が強そうな彼は憎々しげにイチルを睨んでいた。
金を騙し取られたんだ、と気付くのにそう時間は必要なかった。
「金貨は返すよ。この勝負も僕が負けた。それで文句はないんでしょ?」
随分と刺々しい言い方だった。
普通の人ならこれでキレてもおかしくない。実際、俺も若干頭に来て彼を軽く睨めば、マーメイドがおろおろしていた。
だが、それは普通の人の話で、俺と一緒に旅をしているこの王子様はバカが付くほど優しいことを忘れていた。イチルは彼の態度に眉を寄せたが、怒りを浮かべることはなかった。
「金が必要なのか?」
「っ、あんたに関係ないでしょ!…いや、元はと言えば、あんた達王家のせいか」
「…王家に恨みがあるのか?」
その言葉を遮るように、彼、…ホーリエが金貨の入った袋を投げつけてくる。イチルがそれを受け止めたが、ホーリエは悔しそうに唇を噛んでいて、目には涙の膜が張られていた。
「それを持ってさっさと消えてくんない?」
「おい!」
話をする気は全くないらしい。
ホーリエは罵ろうと口を開いたが、そのためにイチル、…彼いわく王家の人間を見るのが嫌そうで、またすぐに口を閉じた。そして、怒りはいつしか自嘲になっていて、フッと鼻で笑ったホーリエがこちらに背中を向けた。
その直前に一瞬だけ見えた今にも泣いてしまいそうな表情が、とても気になった。
「…いや、僕が消えるよ。負けたんだから」
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。