※イチルside
「ご家族のことは聞いてる?」
「…いや、聞いてないな」
嘘だ。話してくれたことがあった。
両親はいたが、血の繋がった実の両親じゃない、と。名家に迎えられた養子で、孤児院の出だから本当の両親は分からない。話してくれたが、タクが頑張って話してくれた心の傷を勝手に話したくなくて、とっさに嘘をついてしまった。
(だが、それって、つまり、…もしかしたら、)
両親がいないんじゃないんだろうか。
人間は誰しも両親を持つからタクが思い込んでいるだけで、実は自然から生まれた。
そう考えれば全ての辻褄が合う気がする。小鳥のくせに翼の使い方を知らなかったことも、圧倒的な実力も、風の王が空位だった千年間も、聖獣になったと言ったタクの言葉も。全て。
「なぁ、ホーリエ、」
なに、とアメジストの目が俺を見据える。
その目に緊張が滲んでいたのは明らかだった。
「俺はあいつが聖獣だろうが、人間だろうが、どうでもいいって思ってんだ」
「はぁ?」
大きく、大きく、澄んだ紫色が見開かれる。
だが、叱責にも似たその眼差しに思わず浮かんできたのは苦笑いで、タクの顔を思い出せばその苦笑いが微笑みに変わるのが分かった。
「あいつは俺の聖獣で、…俺の唯一だ。それだけは変わらねぇし、それだけで充分だ」
「…まぁ、確かにモチヅキはモチヅキだね」
人間だろうが、風の王だろうが、関係ない。俺の隣に立って能天気に笑うあいつを、なのに、時折まさに王と呼ぶに相応しい堂々とした風格を醸すあいつを、絶対に手放さないと決めた。
何があろうと、それこそ俺達の歩む先奈落の底だろうと、最後まで手を取って互いに支えあって歩み続けると誓ったんだ。この魂で。
そこに人間か聖獣かは関係ない。
俺が共に生きると決めたのは人間でも聖獣でもなくて、俺の唯一であるあいつなんだ。
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。