嫉妬する気持ちは分からなくもない。
俺だってイチルが美人なお姉さんを相手にしていたら、というより、それを想像するだけでイライラして不機嫌になってくる。
(惹かれているんだろうね、)
この無愛想で優しい王子様に。
友情ではなく、恋慕という意味で。
小鳥の姿でよかったと思う。人間の姿よりはだいぶ表情が分かりにくいから。イチルを誤魔化せたかどうかはともかく、余裕が有り余るような涼しい表情を崩してやりたかった。
『俺が口にキスしてもいいと思うのはイチルだけだから、安心しなよ』
「んだよ、その浮気の言い訳みてぇな台詞」
呆れきった口調だった。だが、嬉しそうに僅かに口元を緩ませたのを俺は見逃さなかった。
にやりと目を細めると、イチルが慌てて目線を逸らす。からかって遊ぼうとしたが、ちょうどその時にイチルが馬の腹を軽く蹴って、馬が走り出した。その揺れで言葉を飲み込んでしまった。
手を振ってくれるシルフとリィシャとヨトの影が小さくなる。城を出た時に似ていたが、俺とイチルの絆はあの頃よりも強くなっていたし、共に旅をする仲間が三人も増えた。
心の底から信頼できる大切な仲間が。
希望とは何か。
希望とはそこにあると信じることによって初めて生まれるものであり、信じ続けることによって道を切り開く鋭い剣となるものである。
(act.3 風に見放された町 終)
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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。