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13.


俺はこの世界に来て初めて会った人がイチルでよかった、って心底思っているんだ。

確かにほっとした気持ちもあった。予定していたよりもはるかに遠いところに来たし、家の力も及ばなければ望月託としての俺を知る人は誰一人としていない。そんな世界だ。肩が軽くなった。

だけど、不安もあった。

今までの常識が常識だと通じなくなる世界で、俺は小鳥になった。飛べないし、帰る場所もない。

もしもイチルと出会わなかったら、イチルが助けてくれなかったら、この世界に全くの無知で力もなかった俺が生き残ることはできたんだろうか。

黙々と寝床を用意してくれた時も、おちょくる俺を鬱陶しそうにあしらった時も、一緒のベッドで眠った時も、自分のパンをちぎって分けてくれた時も、乱暴にポケットに俺を押し込んだ時も、イチルの暖かさはちゃんと届いていたよ。

助けてくれた人は他にもいた。カルナダ様、ドラゴン、レイロさん、ペガサス。

でも、契約したいと思ったのはイチルだけだ。

「不思議な奴だな、お前。突然出てきて旅に同行したいって言ってきたり、珍しく自分の話を始めたかと思ったら俺を励まそうとするし」

「それは、まぁ、」

「で、俺達に同行する本当の理由は?」

「…いずれ話すよ。約束する」

今はまだ全てを教えることはできない。もう少しだけ時間が欲しい。俺自身が心の整理を終えた時は、きちんと全てを話すつもりでいるから。

結局口にできたのは、言いたいことの一割にも満たなかった。それでも気持ちが伝わったかどうかは、イチルの表情を見れば分かった。

とてもとても穏やかな表情。不機嫌さも鋭さも消えていて、先程まで浮かべられていた切なさや寂しさも見当たらない。ただ落ち着いた表情は心なしか微笑んでいるようで、目を奪われてしまった。

月と星の光に淡く照らしだされたその表情は、月と星なんかよりずっと綺麗だった。

「じゃ、話してくれるのを待っててやるよ」

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王には世界を守る義務がある。
そして、俺にとっての世界は君である。