story.2
コンコン与えられるキスにどれだけ夢中になっていても第三者が出した音にはすぐに反応できるもので、ドアがノックされた音にようやくここは風紀室だと思い出した。
跳ねるようにしてドアの方を見れば、そこには顔を真っ赤にした森宮と顔をニヤつかせた三浦先輩がいた。森宮のうろたえた様子からすれば、ノックしたのはどうやら三浦先輩のようだ。
「うわぁ、お熱い。嫉妬してしまうよ」
「ちょうどいいところだったのに…。ノックなんかせずに大人しく見ててくださいよ」
「ちょ、おま、…まさか、八尋!!」
その言葉は明らかに今二人の存在に気づいたものじゃない。
ヒク、と頬が引きつるのを感じたが、三浦先輩の一言に口を閉じた。
「俺も写真を撮って新聞部に売りたかったんだけど、仕事が来たんだよ」
「構いませんよ。写真部からのインタビューが来れば応じますから。で、仕事って?」
「生徒から寄せられた質問の回答。新聞部がね、食堂に質問ボックスを設置したんだって。生徒が日頃から疑問に思っていることを書くっていうもの。で、生徒の代表として納得のいく回答をしてほしいって」
「志貴、知ってる?」
聞いたことはある。
一週間だけ設置された質問ボックス。なにを質問しようかな、なんて生徒たちが口にしていた。最終的には生徒会に回ってくるだろうとは予想していたが、三浦先輩が手にしている量は予想していなかった。
「そ、それ、今日だったんですね」
「声が裏返ってるよ」
「お前のせいだろ」
キッと睨めば、痛くも痒くもなさそうに笑われた。
「だが、それならすぐに回答した方がいい。この後、兄弟校の生徒会長と会計が来校する予定になっている」
「聞いてないんだけど、」
「まぁ、風紀には関係ない話だからな。パンフレットにお互いの学校を紹介する文章があるから、その相談に来るんだよ。確か名前は、…東郷と竹崎だった」
三浦先輩から質問書を受け取り、風紀室の応接スペースにまで移動する。
強めに身をよじって八尋の腕から抜け出せば、あからさまに不服そうな表情をされた。だが、文句を言える時間もないとは理解しているらしくて、さっと視線を逸らした後に給湯室に入って行った。
俺と三浦先輩、森宮がソファに座って少しして、八尋が冷たい麦茶を入れたグラスを持ってくる。八尋だけはあのヒヨコのマグカップだ。因みに、森宮はまだ真っ赤になって黙り込んでいた。
「麦茶にマグカップってどうなんだよ」
「別にいいと思う。それより、質問見ていこうよ」
「それもそうだね。奏、そろそろ戻っておいで。あんな子供っぽいキスより、俺が夜にしてる方が激しいんだけど…、いつまでも初だね」
「ま、雅臣!やめろって!!」
「子供っぽいってなんです?本当に最後まで見ますか、先輩?」
「質問見るぞ、ほら」
これ以上話したらありえない方向に爆走する会話を止めるべく、俺は慌てて一枚目の質問書をテーブルの中央に置いた。
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