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【不意討ちハニー】

「んッ、玲…、ぁっ!」

 何故、こうなったのだろうか。

 家が隣で、幼稚園からの長い付き合いである玲は言わば幼馴染みというヤツで、まぁ、俺にしてみれば親友だと思う。

 そう、“俺にしてみれば”。

 慣れない高校生活で俺は玲を頼りにしていた。玲もいつもと同じように笑ってた。

 それが、さっきまでの話。

 つい十分前、帰りのSHRをサボって地学資料室の掃除を命じられた玲を手伝うために、俺は玲についていった。

 道中ではニコニコと嬉しそうにしていたくせに、部屋に入れば豹変。ドアが閉まった瞬間に壁に押し付けられた。

 それで――――…、

「なに、考え事?余裕なの?」

 くちゅくちゅという水音と、口内を乱暴に荒らす熱に思考は強制的にストップ。今、朦朧とした頭で分かるのは二つだけ。

 一つ。俺の歯列をなぞり、逃げる舌を追いかけて絡まり、唾液を交わらせているのは玲の舌だと言うこと。

 二つ。玲は、…多分だが、怒っている。理由は分からない。ただ、いつもは穏やかな目が睨むように鋭くなっている。

 何に、怒っているのか。

 なんで、こんなことをするのか。

 呼吸が上手く出来なくて、酸欠に陥りそうな思考は動いてくれなかった。

「玲…ッ、ふぅ、ぁ」

 苦しくなって背中を叩いて、やっと解放される。実際は一分もなかっただろうが、唇同士が重なりあっていた時間は、とんでもなく長い時間のように感じられた。

 肩で荒い呼吸をする俺とは違って、玲は涼しい顔で唾液に濡れた唇を舐めた。

 赤く、やけに色っぽい舌。

 それを認識した瞬間、顔、いや、耳や首筋まで一気に熱くなる。呼吸を乱したまま、袖で唇を拭って玲を睨んだ。

「っなにすんだよ!」

「なにって、キス」

「なんでッ!!」

 そう聞くと玲は黙ってしまった。

 だが、視線は俺に向けられたまま。いつもの穏やかさはなくただ真剣な眼に、俺は気が付けば逃げるように瞼を閉じていた。

 ――――… ふっ、と頬に触れられる。

 玲の手だ。包むように両頬に触れるそれは暖かい。だが、玲との長い付き合いの中でこんな風に、…恋人のように、触れられたことはなかった。たった一度も。

 いつもは少し乱暴なまでに無遠慮な手付きだった。友達、としての。

 だから、驚愕や困惑とかよりも先に、寂しさを感じた。親友と思っていたのは俺だけだったら…。そう思うと涙が出た。

「お、おい!っ柚樹?」

 俺の名を呼ぶ声にも反応出来なくて、涙を流しっぱなしだった。どんどん溢れてくる。玲が焦っているのが分かる。

 だが、それでも、瞼を開けるのが怖い。

 今、目の前にいる玲が、いつもの玲じゃないような気がして……。

「柚樹、悪かったって。泣くなよ、な?」

 強く抱き締められたことにビクッと肩を跳ねさせてしまえば、玲はゆっくりと腕の力を抜き、離れてくれた。

 遠くなった温もりが恋しくて、思わず手を伸ばしそうになってしまった。

「あんな、聞いてくれ…」

 やはり遠慮がちに涙を拭ってくれる。その声色がいつものものに戻ったような気がしたから、瞼を開けた。

 すると、苦い表情をした玲がいた。

「お前さぁ…、無防備すぎんだよ。放課後の資料室つったら、誰も来ねぇぜ?なのにバカみてぇについてきやがって」

「は?んでダメなんだよ?掃除、手伝おうとしただけだろ。お前だし」

「………俺も男なんだけど、」

 その声を聞き取れなかった。

「わりぃ、もう一回言って」

 そう言えば、玲は一瞬躊躇うように視線を泳がせた後、意を決したように強い眼差しを俺に向けた。

 そして、玲は深呼吸する。

「いいか…、よく聞けよ」

 大きく息を吸った玲の声は、
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