僕らのアレゴリック展覧会
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出会い

いま、
乗っている電車を降りて
アスファルトに穴をあけて
地中深くまで潜って
マントルも通り越して
とうとう地球の反対側に着いたら
そこから顔を出す僕に、
君はどうやってあいさつをするのだろう
そればかりが気になって
地球儀に浮かぶ太平洋を
ずっと触っている

この世のどんな大きな竜が
僕を君のところへ運んでくれるのだろう
竜は青いだろうか
それとも光っているだろうか
君が竜のしっぽばかりが気になって
僕を見つけなかったらどうしよう
竜の背中に生えた小さなハネに
僕はいつまで隠れていたらいいのだろう
出会うのはいつだって
覚えのない旗の下なんだ

あいさつは僕からしよう
いくらでも
いくらでも
何度でも

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琵琶のいと

マクロコスモスに身を傾けよ
見果てぬ運河の向こう岸
はるかに聞こゆ麦の香の
末代の無事まづ床に知れん
繋がるものはただひとつ
すべてを帰依さす琵琶のいと

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うごめき


風が稲穂をからかう
蛙は鎮座して水を支配する
音に帰った旅人が空気をさ迷い歩く
僕は虹色の夢を見ている


宇宙空間を生きる星の声
ひそかな息遣いが会話する
地球上のどんな生物にも聞こえない
瞬きのような合図を待っている


ネオンは反対側車線を照らす
僕は繁華街を走り続ける
誰もが恋に落ちるまやかしの世界は
ありふれた光で見えやしない


そしてまた、夜
僕と羊が向かい合う
赤色の生命の産声を見上げて

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価値観

ふつつかなのは
赤子か見栄か

甘えているのは
子犬か叫びか

捨てているのは
己か他人か

浮かれているのは
道化か心か

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喚け

他のどれかと混ざればいい
知らないなにかに笑えばいい
許されたどこかで探せばいい
見えないいつかが終わればいい


あなたを試している

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星空観察

いま
包まろうと手を伸ばしたのは
毛布じゃなかった
紙でもなかったし
人でもなかった
それは宇宙だった
宇宙は僕を包みたがっていた

手足の冷える大気の内側は
あの子もきっと凍えてる
数え切れない誰かのなかで
ぽつんと一人で凍えてる

もし
宇宙の膜に僕の指先が触れて
温度が向こう岸へ流れたなら
あの子に届くのだろうに
あの子に触れるだろうに

星は瞬きをやめずに
玉のような瞳であの子を見ている

螺旋状の宇宙を見上げて
地球の誰もが見上げて
包まるものを探している
あの子もきっと探している

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音響


つまるところ気付いたのだ。ドレミのドはシマウマ。レは赤とうがらし。ミはオレンのみ。ファはモーツァルト。一つ存在する何かは、他のどれかと波長が重なることで共鳴する。それは糸をはじくとあらわれる音のように。むつかしい顔をしたおじいさんが、キャンデイをねだるひざっ子に微笑むように。共鳴。共鳴。重なる。音でない何かは常に発信している。まっすぐに。円形に。湾曲に。そして時には弱々しく。鮮明に。枯れた落ち葉はアンテナ。鶏の朝。宇宙征服を企んだ陽は共鳴を求めて再び昇る。かゆいのは長三和音。
そうして世界はまわるまわるまわる音をたよりにまわるまわる時間をかけてまわる一瞬でまわる気がつけばまわる睨みながらまわる歌いながらはにかみながら騙しあいながらまわるまわる世界の中心で僕を巡って。

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交わる

もしレンタカーに乗るなら
アロエヨーグルトは食べないし

もしビートルズを聴くなら
豆乳は飲まずにジンジャーエールをあおるよ

それからサイクリングするなら
ウィンドウズは閉じてイヤホンはとろう

どうせ君が嫌いと叫ぶなら
僕は好きを手紙で綴るつもりさ

青が国分寺なら
エメラルドグリーンは日暮里

ドレミとイタリア語で歌うなら
ABCと英語で語りたいな


結局最後には
そら豆は朝方につまむ
にたどり着くんだから

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寝床

まず初めに力を抜くのは足先
それから足首
膝をぐるっと一周して、
脚の付け根はぐったりと寝かす

次は手先の力を抜く
小指から順番に、
手首、肘、肩ときたら
腰の力を抜いてやる
おへそが動くのは
寝息を立てるのに必要な分だけ

最後は神経です
心臓を宥めるように深呼吸したら
首を枕に預けて、
まず口を閉じ、味覚よおやすみ
地球の反対側で鳴く鶏の声に耳を傾けたら
自然と鼻は寝息を立てる
最後は
天井に向かって一、ニ、三、と数えれば
瞼は我が眼球を愛おしむかのように
降りてくる

世界よさようなら
君よおやすみなさい
それから僕、またあとで

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三人目

向かい合わせに座ったアレゴリーは
思い詰めた顔で謡います

得体の知れない赤信号
止まることは実に容易い
僕らが信号機なら
いつだって青でいることは難しい
逸脱してはいけない何かから
抜け出したくて、黄色を点滅させている
カモシカのようにアリクイのように

向かい合わせに座った私は
あっけらかんと尋ねました

振り出しに戻ることは
何かから逸脱することになるだろうか
認めたくないことがらを
逆再生しているのは誰でしょうか
不可思議で肝の座った苛立ちは
いずれ花咲いて散るのでしょうか
アスランのようにワトソンのように

そこへ通りかかった老人は
二人に手紙を渡しました
宛名は「言われようのない難破船」

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