BACK TOP
千年
わたしの生まれる千年前
わたしはわたしの灯を見送った
わたしがわたしを見つけるとき
わたしはわたしと戯れて
わたしはわたしの手を握り
わたしはわたしが恋しくなり
わたしをわたしは選び取る
わたしが生まれた千年後
わたしはわたしに巡り会う
---
ひだ
無数のひだ
無数のひだは
深い深い海底に広がっている
奥に潜むのは紛れもなく
わたしだと分かっていても
わたしはひだを掻き分けて進む
ひだを取り除くことはできない
わたしが通れる分のスペースだけを
手で押し分けることしかできない
ひだはどれもが生命にしがみついて
波にさらわれないよう
必死にもがいている
わたしはひだを掻き分けて
奥へ奥へと歩を進める
わたしがわたしを見つけるまで
---
神秘的
午前一時四十九分
救急車のサイレンが
どこかの誰かを迎えにゆくとき
一本の木からドングリが落ち
ある人は布団に潜り込み
校庭には北風が駆け抜ける
わたしは目を閉じて瞼の裏を見つめる
午前一時五十四分
家の前の道路を
一台のワゴンカーが走り去るとき
酔い潰れた男がいびきを止め
生まれ立ての赤ん坊が寝言をつぶやき
おじいさんは寝言をつぶやく前に死ぬ
夏に取り残された蝉が最後の羽音を鳴らす
午前二時きっかり
すき間風は寒くない
寝返りで擦れた布団の音は気持ちがいい
ふすまの向こうにひそむ座敷童
誰もいないリビングは
テレビの音だけが反響している
わたしは目を閉じて瞼の裏を見つめる
夢の中で鳴鱗琴の音色をきく
午前二時七分
世界中の音が夜にすっぽり包まれる
---
無題
暗くなったら
力が抜けるのは
目が乾くから
まぶたを閉じるのは
耳をすましたら
空気が遠ざかるのは
どれもこれも、
みんなみんな、
自然じゃないか
明るくなったら
空を飛ぶのは
やわらかいと
銃を向けるのは
空想を捕らえようと
必死で搾り出すのは
あれもこれも、
なんだかんだ、
自然じゃないか
どうだって
なんだって
いいじゃないか
---
あわれ
今にも
風に
さらわれ
そうな
何かは
よわよわしく
くだけた
あれらと
どこかで
肴の
ように
ひき
ちぎられ
みせ
つけられ
バッグの
なか
へと
消えて
いく
---
数学者
雨が降ると
そこは匂いに支配される
土と、草木と、それから息吹
これらは自らの胸の奥にある
とめどない歓喜を
匂いという媒体を使って
われらに向けて発信しているのだ
それを受け止めるのは
われわれにとって
いたく喜ばしいと同時に
ひどく難しい
何故なら彼らと交信するには
われわれの生命の匂いを
彼らに伝えなくてはならないからだ
生命の匂い
歓喜のおと
それは脈絡をつたう血潮に身を任せること
葉脈に自らの脈をあてがうのだ
大地にしみる水の匂いを嗅ぐのだ
そう思わないかね、君
---
希望
誰もが
新しさを求めてる
誰もが
過去を美化したがってる
誰もが
残された何かにすがってる
誰もが
まもられたいと願ってる
誰もが
愛されたいと叫んでる
僕らも
他の誰かでない自分を探してる
僕らは
まだ見ぬ明日に胸を震わせる
---
生きるって どういうこと
大学の教授
「それは実に美しい比率で出来ている。」
小学生
「食べられないし目に見えないよ。」
詩人
「それはわれわれにとって究極の真髄です。」
社長
「せめて我が社が発展するまでは。」
飼い犬
「ずっと飼い主さんに愛されていたい。」
蝉
「七日間戦争ってやつさ。」
演奏家
「糧を見つけるのは難しいことです。」
---
私見
宇宙だとか
地球だとか
そういった言葉を使いたがるのは
物事を
自分の位置から見たくないからです
わたしの眼球に映る世界を
信じることができないからです
いつも
自分の背中の後ろで変化している
この世の万物の動きが
気になるのです
わたしは前を向いているのに
だけども
振り返ることができるのは
わたしだけなのです
---
差し出す手
銀河鉄道に乗って
カムパネルラを探しに行こう
カムパネルラに会いに行こう
どこ行きのチケットを
持ってったらいい
なんて
誰にも分からない
ジョバンニは
水辺で戯れる蛍を見つけて
これはカムパネルラだと信じてる
宇宙の果てまで
探しにゆこう
ステーションは
すぐそこに
---
↑back next↓