囚ーtorikoー | ナノ
「な、なにいって」
ナルトはうろたえた。カカシが何をいっているのかわからない。
「……俺のものになれ、っていった」
目の前のカカシのその表情は見えない。
しかし唯一晒しているその隻眼の瞳が何かを語っていた。
それを見てぞくり、とナルトの背中に冷たいものが走った。
「は、放せってばっっ!!」
怖くなったナルトががむしゃらにカカシの腕の中で暴れる。
こんなカカシは知らない。
自分の知っている『カカシ』は、こんな冷たい目なんかしない。
自分が知っている『カカシ』はいつも厳しいけれど、それ以上にとても優しい……はずだった。それなのに。
「やだァっ!!」
カカシは暴れるナルトの身体をいとも簡単に腕の中に縛り付ける。
ナルトの力を呆気なく封じてしまう絶対的な力。
「……っ!?」
突然カカシがナルトの両腕を背中で束ねると、ナルトの胸が突き出される格好になる。
「お前は、中忍になっても俺から手放してやらない。」
ナルトの揺らぐ蒼の双眸を射抜くように睨んでカカシがそういった。
「!!ーーやっ」
空いたもう片方の手でナルトのTシャツを捲し上げた。
「センセーッッ!!」
他人の手の感触にナルトが悲鳴を上げた。
カカシの手が容赦なくその中へと押し入っていく。
身動ぎして逃げようとするが、それもままならない。
「やっ……やだっっ」
その手先が腹から胸へ移動していくのがわかる。
自分の肌にカカシの手の冷たい感触が波紋のように広がるのを感じて、身震いした。
(ち……ちくしょうっ!!)
ナルトはその眦(まなじり)に涙の粒を滲ませて唇をきつく噛んで、その感触に堪える。
どんなに抵抗してみても、ナルトの自由を奪うカカシはどこ吹く風だ。
自分の力など、まだまだカカシには及ばない。
悔しいけれど、哀しいけれど、それが上忍と中忍の力の差だった。
けれどそれに屈したなら自分はどうなってしまうのか。
わからない。
カカシがどうしてこんな仕打ちをするのか、わからない。
しかしこんな理不尽な事を許してやるほど、ナルトはお人好しではない。
「カカシセンセーっ!!いやだーーっ!!」
ナルトは息を吸い込むと、懸命に叫んだ。
その瞬間、身体を翻弄するカカシの手がピタリと止まる。
ナルトはそれにホッとして一瞬、力を抜く。
もしかしたら逃げられるかもしれない。
いや、もしかしたらカカシがこの両腕を解いてくれて笑って最後には冗談だといってくれると、ナルトはそう願った。
「……そんなこと、」
唸るような静かな声に、ナルトの息が止まる。
「いっていいの?」
「痛っ、!」
カカシが背後で束ねられていた両腕を強引に引っ張った。
ギシ、と両腕が悲鳴を上げる。
「センセー……っ」
ナルトは小さく呻き苦しげに眉間を寄せながらも、カカシを睨みあげた。
「ねぇナルト?そんなに抵抗するなら、」
隻眼の瞳の、闇が濃くなった。
カカシがナルトを見つめる。
「あの中忍がどうなってしまうかわからないよ?」
今なんといったのか?
ナルトはその言葉に弾かれた様にカカシを見返した。
「……な、なに……?」
「俺なら殺せるよ。」
「……っ、」
強引にナルトの顎(あご)を掴み上げてそういった。
「お前の大事なもの全部、この手で壊せるよ。」
ナルトは信じられないという風にカカシを見た。
凍てつく氷の様な男が自分を見つめている。
『俺なら殺せるよ。』
カカシの言葉が木霊する。
『お前の大事なもの全部、この手で壊せるよ。』
……彼がもし本気で、イルカを殺すとしたら?心がざわめく。
しかしナルトは即座にその考えを否定した。
そんなことない、そんなことない。
だって、だって、センセーはそんなことしない。
そんな、
そんな、
その気持ちがナルトを戸惑わせ躊躇わせ、抵抗する力を弱めていく。
「……っ!?」
ナルトの目が大きく見開いた。
首筋にチクリとした感触がして、次に意識が体力が急速に萎えていく。
「な、んで」
身体が、支えていたカカシの腕からすり抜けていく。
カカシに縋りつけずに。
そして悟った。カカシは自分に薬をうったのだ、と。
「……せ、んせ……ぇ」
ぼやけていく視界、力のない身体……もう自由が利かない。
ナルトは掠れた声で見下ろす男を呼んだ。
重くなる目蓋の裏に最後までカカシの姿を映しながら、ナルトは暗い深遠の淵に沈みこんでいった。
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