囚ーtorikoー | ナノ






ふとナルトは浅い眠りから覚める。
(あ…れ、俺…?)
ぼやけた視界に飛び込んできたのは暗い天井。

「ここ、」

目を瞬かせてナルトはつぶやいた。
(どこだっけ?)
確かに視界に広がるその天井には見覚えがあって。
(ん〜??)
右腕で目を擦った。ここが何処なのか、思い出せそうで思い出せない。
なんだか頭もぼうとして重いし無性に咽喉が渇く気がして、ナルトは無意識に布団から上半身を起こした。
(水飲みてぇ…)
水を飲みに行こうとかけてあった布団を捲くろうとした、瞬間。

「!?」

自分のすぐそばにある気配にナルトは身体を硬直させる。次の瞬間には脳裏に銀色の髪のあの人を思い浮かべ、ナルトは息を殺した。

「……」

必死になって昨夜の事を思い出そうとした。
けれど思い出せない。記憶がすっぽりと自分の頭からなくなっている。
……もし。もしも、あの人が自分のそばで寝ているのなら……?
寝ているとしたら……自分は、またいつもの様にあの人に抱かれてしまったという事になる。
(な、何…っ考えて…っ)
そこまで考えて無意識に、身体が火照ってくるのにナルトは慌てた。
(ヘンだってばよ)
ぶんぶん、と頭を振った。
こんな事、今の今まで感じた事はないのに。
このままいくと、ナルトは毎夜カカシが施す情事を様々と思い出しそうで……
(考えるなってばよ…っ)
なんとなく気恥ずかしさで頬を少し染めながらナルトは、はぐらかす様に自分の身体を触った。
(?……なんとも、ない?)
いつもの様に抱かれたなら、身体は鉛の様に重たいはずだ。けれど今、頭がぼう、とする事はあっても……身体が浮遊している様な感覚がするだけで何ともなかった。
それに裸ではなく、きちんとシャツも身に着けているしズボンもはいている……じゃあ、今、自分の隣にいるのは?誰なのだろう?
小さな疑問が湧きあがる。 耳を澄ませば微かな寝息が、耳に聞こえてくる。
自分の心臓の音も煩いくらいに響いて……
ナルトは知らずごくりと唾を飲み込む。
(……)
ぎゅ、と拳を作る。
そばで寝ているのが誰なのか、それを確かめよう。意を決した様にナルトは恐る恐る隣を見た。

「っ!……イルカ、せんせ」

狭いベッドの壁側にイルカが寝ていた。イルカを見て、ナルトは大げさに胸を撫で下ろした。

「なんだってば……もう、脅かすなってばよ」

安心したのか、寝ているイルカに小さく悪態をついた。

「俺ってば、」

サーッと血の気が引いていく。
この時ようやく昨夜の事を思い出した。


「……イルカ先生に、迷惑かけちゃったんだ…」

きっと。
あの後、酷く酔っ払った自分を部屋まで連れて来て泊めてくれたのかもしれない。
その間の記憶は曖昧で、よく覚えていないのだけどイルカは自分の世話を焼いてくれたのかもしれない。

「……イルカせんせーゴメンね」

イルカの寝顔を見ながら、ナルトは済まなそうにつぶやいた。

イルカは強い。そして、優しい。
こんな自分をアカデミーの頃からずっと気にしてくれて、他の皆と同様に別け隔てなく接してくれる。
自分にとって、イルカはとても大切な人で唯一、自分という『存在』を認めてくれた人だ。
だから、ほんの少しでも。そう、いつかはイルカの役に立ちたいとずっと思っていた。
その願いは中忍になって、ようやく叶える事ができた。 けれどイルカに迷惑をかけまいとしていたのに、反対に自分は迷惑をかけてしまったらしい。

「…情けないってば…」

ナルトは自分の不甲斐なさにため息を零した。
イルカなら表面上では怒っても、それを笑って許してくれるだろう。
そういう人なのだ。

『俺なら、殺せるよ。』

不意に脳裏に浮かぶあの夜のカカシの姿と言葉に自然、顔が曇る。

『お前の大事なもの全部、この手で壊せるよ。』

その言葉が今も、酷くナルトの心を苛む。
その反面、心の底ではまだカカシを信じている部分が確かに、ある。
(…でも、)
ナルトはあの時に初めて見た、カカシの冷たい双眸と表情を思い出す。
あれは、他人を殺す事を厭わない――ナルトが初めて垣間見た、カカシの暗部としての顔。

きっと。
そうカカシは、イルカを殺す事に躊躇しない。躊躇わない。

……そこまで考えてナルトは身体を戦慄かせた。
(…嫌、だ…)
頭を振ってその考えを、追い払う。
(嫌だってばよ…)
ナルトはイルカを見つめた。その寝顔は、穏やかで胸が締め付けられる。

「…護るってば」

ナルトは、掠れた声でつぶやいた。

「…絶対、に」

今でもどうしてカカシがあの時、何の為にそういったのかわからない。
ナルトにとって大切な存在(イルカ)を失ってしまうなんて考えられないし、失いたくない。

だから。
イルカを護る――護り抜いてみせる。

……例え、相手がカカシだとしても絶対にイルカには手を出させない。
自由を奪われて、この身体をカカシに陵辱されたとしても――かまわない。
何の力も持たないナルトの、イルカを護るそれは唯1つの方法だから。

「護るってば」

何かを決意する様なナルトの微かなつぶやきは、眠るイルカの耳には届かず夜の闇に消えていった。






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