囚ーtorikoー | ナノ






「…ったく。」

イルカは大げさにため息をついていた。
背中には酔っ払って眠ってしまった大きな子供を背負って自分の部屋に帰る途中。

「あんなになるまで飲むからだ。」

しかし、イルカのそんなぼやきを聞いているのかいないのか、子供は微かに酒の匂いといびきをかきながら気持ち良さそうに眠っていた。
イルカはナルトと一楽にラーメンを食べに寄りまっすぐ部屋に帰るつもりだった。
その帰り道キバやシカマル、シノにチョウジと元生徒達とばったり偶然に出会い、話が盛り上がって気づくとそのまま居酒屋へ直行していた。
(あの時、早く切り上げていれば…)
イルカも久々の元生徒達との再会で心が浮かれだっていたから、非がないわけじゃないけど。
(こいつが、あんなに酒が弱いとは誤算だった)
よっこいしょ、とイルカはズリ落ちそうになるナルトを背負い直し、数分前の出来事を思い返す。

元々、そんな宴会染みた雰囲気が好きなのか酒の席でのナルトはよく飲みよく喋っていた。
聞けば任務明けに仲の良い中忍達が酒を飲みに連れて行ってくれるのだという。
ついて行く内に酒も嗜む様になっていたと、ナルトは嬉しそうに笑った。
イルカはそれを聞いて改めて感慨深くなっていたのだが、その間もナルトの飲むペースは上がっていき終いにはベロベロに酔っ払ってしまっていた。
その時点でナルトはもう自分で立つ事も適わないので仕方なくイルカは自分の部屋へと、連れて行く事にして酒の会はお開きになった。

「はぁ…今度飲みに行く時は少し酒の限度というものをキチンと教えてやらないとな。」

もう何度目かのため息をついてイルカはつぶやいていた。


数分後、部屋にようやく辿り付いたイルカは、部屋の電気を点けると眠っているナルトをそのままベッドの上に降ろした。そしてペチペチと頬を叩く。

「おい、ナルト、ナルト?」
「…うぇ?」

数回ほど叩かれてようやくナルトが目を開ける。
まだ焦点が定まらないのか瞬きを繰り返していた。

「はぇ?イルカてんてーぇ…?」

ふにゃり。ナルトはイルカに笑いかけた。
その笑顔がまるで赤ん坊みたいなのでイルカは思わず苦笑する。

「ナルト、どこか気持ち悪い所はないか?水、飲むか?」
「う?」
「水。」
「み…ず」

しばし逡巡してナルトは頷いた。

「ほしー」
「よし。」

イルカは立ち上がり台所でコップに水を汲んできた。そしてベッドに寝転がったままのナルトに差し出す。

「ナルト水、だ。飲めるか?」
「うー?」

コップとイルカを交互に見比べ、ナルトは上半身を起こそうとした。しかし…

「あれぇ〜俺ってばぁ、身体が動かにゃーい」

ろれつが回らない声でナルトが笑った。
自分では起きようとしているらしいが、イルカから見ればただ寝転がっているだけだ。
イルカは仕方がないので、ナルトの右腕を軽く引っ張った。力の入らない両肩を支えてやる。その手にコップを握らせた。

「ほら、ナルト飲め。」
「えへへ、てんてーてばっ優しーっ」

ようやくコップに口をつけたナルトがグイ、と水を飲む。勢いよくゴクゴクと一気に飲み干した。
最後まで飲み干してナルトは満足したのか盛大に吐息をつくと、周囲に酒の匂いが充満する。

「う…っ」
「ぷはぁ〜生き返るってば〜〜よぉ」

イルカはそのツンとする匂いに顔を顰めて、思わず支えていた手を外しナルトをベッドの上に放りだした。
放り出されたナルトはバタバタとベッドの上を叩いてはしゃぐ。

「あははは、てんてーっ何すんだってばぁっ」
「バカ!お前は酒の飲みすぎだっ!」

イルカが両手を伸ばしてその金色の髪をぐしゃぐしゃにかき乱した。

「やっ、やめにょってばぁっ」

力のない手でそれを止めようとするが、止められないでいる。

「俺なーんもしてないぃっ」

自然に身体を左右に寝返っては攻防を繰り返した。
2人のじゃれて笑う声が狭い部屋に響き渡った。


そうこうするうちにイルカはナルトと戯れるのを止める。

「…ったく。」

ナルトを見ると、微かな寝息が漏れ始めている。騒がしかった部屋が、一瞬のうちに夜の静けさを取り戻していた。それに苦笑してイルカはゆっくりと、立ち上がった。

「あぁ〜あ、ベッド占領されちゃったよ…」

ナルトは両手両足を投げ出して大の字になって寝ている。
イルカは部屋の電気を消した。

「お休み、ナルト。」

その頭を撫でて部屋を後にする。

「さて、」

台所に立ち蛇口を捻るとコップに水を入れて飲んだ。
吐息をついて、水を飲み終わったコップをシンクに置き、ふと上着の内ポケットに手を入れる。取り出したのはタバコとライター。
その箱から1本取り出しイルカは口に咥えライターで火を点ける。

「今日も、忙しい1日だったなぁ…」

一服しながらイルカは今日の事をぼんやりと、思い返してみる。
(そういえば…)
酒の席で、イルカは元生徒達の他愛ない話を聞いていた。この間の任務の話、上司や依頼主の話、仕事のぼやき、その他いろいろ。
その時たまたま三年前の中忍試験を始める前の話になってイルカは興味を示しつつ聞いていたのだが…まっ先に話し出すと思っていたナルトは、何故か当たり障りない様にさらっと流してしまった。
(何かあったのかな…)
ナルトの表情が酷く、哀しそうに見えた――…
アカデミーを卒業してから晴れて下忍になったナルトは上忍『はたけカカシ』の下、サスケやサクラと共に厳しく辛い任務や修行でも、充実した毎日を過ごしていたはずだ。
それなのに…いつの間にあんな表情をする様になったのか。
(あの時も、)
イルカはナルトの眠る部屋に視線を向ける。
耳をすませば微かにナルトの規則正しい寝息と寝返りを打つ気配がする。
一度、紫煙を吐き出すとまだ長いままのタバコを灰皿に押し付けた。
そうしてナルトが寝ている部屋の出入り口に立つ。
部屋の電気の逆光で、ナルトの寝顔はよく見えないけれど確かにそこにいる。
イルカは安心した様に、小さい吐息をついた。





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