囚ーtorikoー | ナノ
よ‐かん 【予感】
[名](スル)何か事が起こりそうだと前もって感じること。
また、その感じ。「いやな―がする」「運命的な出会いを―する」
アカデミーの教員室の窓からオレンジ色の夕日が顔をのぞかせる、夕暮れ時。
遠く近くで、巣へと帰る鳥達の羽ばたきと鳴き声が響く。
イルカが書類から目を離して、ふっと吐息をついた。
(あぁ、もうそんな時間か…)
室内に視線をめぐらせばオレンジ色に染まっている。
「イルカ先生、お先に失礼します。」
右斜めにいた女の教師がイルカにそう声をかける。
イルカは笑って。
「あ、もう上がりですか?」
「えぇ。イルカ先生もあんまり根を詰めないで下さいよ?まだ明日もありますし。」
「あ〜そうですね。」
同僚にそういわれてイルカは微笑む。
気が付けば教員室には教員もまばらになってきて、最後まで仕事をしているのはイルカとナルトの2人きり。
「ナルト君もね?そろそろ切り上げたら?」
もう1人、帰ろうとしている女教師がチラリとイルカの隣の席にいるナルトにもそう声をかける。
その声にせっせと雑用をこなしていたナルトが、ひょいと顔を上げた。
「大丈夫!!俺は平気だってばよ!仕事まだやり足りないしっもっと仕事してもイイくらいだってば!」
ニカっと笑ってそういうとナルトが、左腕を掲げてガッツポーズをする。
そんなナルトにイルカが大げさにため息を吐いた。
「バカ、最後までお前に付き合う俺がもたないだろう……」
「えぇーっ?!今日一日イルカセンセーの役に立ってたじゃんか〜ぁ」
ナルトがすかさず非難の声を上げる。
「まぁ一応は、な。でも子供達と一緒になって答案用紙、紙飛行機にして飛ばしたりイタズラしたりしてたのは誰だっけ?あぁ…その後、そうだなぁ居眠りしてたり…」
「うっ」
今日一日を思い返しながらいうイルカに言葉を詰まらせるナルト。
そのやり取りに教員室に残っていた全員が笑った。
「フフフ、じゃあお先に失礼します。お疲れ様。」
「お疲れ様でした。」
「お疲れ様だってばよっ」
「また、明日。」
最後の1人が教員室から出て行くと、シン…と静かな雰囲気が漂い始めた。
「悪いなぁ、ナルト。」
イルカがコーヒーを入れたカップを机に置きながら声をかける。
「如月先生の代わりに1日中、子供達の世話や雑用ばっかりでお前もそろそろ疲れたろ?」
「ンなことないってばよ。ツナデのばあちゃんの命令だし、これも大事な任務のうち!」
そんなイルカにナルトが微笑む。
現在の木の葉は、アカデミーの教員にまで手を貸してもらう事も少なくないので、欠員が出た時は別の代役を立てる事がある。
たまたま今回は、ナルトがツナデから1日教員代理として任命されて、朝からアカデミーにやってきておりイルカのサポートと、雑用一般をこなしていたのだった。
「今日は任務でも楽しかったから、疲れてないってばよ。それよりさ〜イルカ先生はもう体力ツライんじゃない?」
「ばーか。体力バカのお前とは違うよ。」
イルカがナルトの頭を小突けばナルトがツンと唇を上向かせて、大げさに頭を撫でる。
「イテッ!もちっと労ってくれてもいいじゃんかよっ、」
「まぁお前が来てくれるとは思わなかったけど…助かったよ。ありがとう。」
ナルトの頭をさっき小突いた手で撫でたイルカにびっくりした様に目を見開いて。
優しく撫でる手に照れくさそうにナルトがはにかむ。
「……なんだよ、改たまって……テレるじゃんか。」
「いや、本当に感謝してるよ。」
イルカもまさか、ナルトと一緒にこの仕事をやるとは夢にも思っていなかったが、それでも。この目でナルトのその仕事ぶりを垣間見て感慨深くなる。
「ありがとな。」
イルカがナルトを生徒として受け持った時は、本当にこの子は一人前の『忍』になれるのだろうかと思ったものだ。それは当時のナルトを見れば一目瞭然だった。
アカデミー開校以来、三回も落第した問題児だったのだから。
でも、今はどうだろう。ようやくアカデミーを卒業してからはナルトに対する周囲の人々の態度も変わり取り巻く環境も変わり、ナルト自身も心身ともに成長し、自分と同じ中忍に昇進した。
それを聞いた時、どんなにイルカは自分の事の様に喜んだだろう。
「なぁ、ナルト。久々に一楽に行くか?」
コーヒーを啜るナルトにイルカは聞いた。
「えっ?!ホントだってば?!それってセンセーのおごり?」
途端に無邪気な子供の表情に変わるナルトにイルカは思わず、噴き出した。
まだ『おごる』とは一言もいっていないのに、変わらないこの態度。本当にナルトらしい。
「なんだよ〜」
ナルトが不服そうに両頬を膨らます。イルカは笑いを堪えられない。
「いつまでも、笑いすぎだってばよ!」
怒って詰め寄るナルトを宥めるようにイルカは、ぽんぽんとその肩を叩いた。
「いやいや…あぁ、勿論。うん、今日のお礼に俺がラーメンをおごるよ。」
「やったぁ!」
嬉しそうに笑うその姿はまだ子供のままで、イルカはなんだか心がホッとするのを感じ、苦笑した。
ナルトの成長を喜ぶ反面、過保護すぎる所も無きにしもあらずなのを自分自身よく知っている。
(なんだか…子離れしていない親みたいだなぁ…まだ結婚もしていないってのに)
もし将来、結婚して子供ができたならやはり自分は今の様に構うんだろうか?
昔、両親が自分にしてくれたように。
そそくさと自分の書類を書き上げるナルトの横顔を見ながら、イルカは途方に暮れた。
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