囚ーtorikoー | ナノ






うず・める うづめる 0 【▽埋める】
(3)隙間が残らないようにもので満たす。
ひ 1 【火】
(6)激しい感情。燃えさかる情熱。



浅く、まどろむ意識の中で小さな羽音だけがやけに響いた。

それに気がついてカカシはうっすらと、重い目蓋を開き視線を窓に向けると薄闇の窓の縁に小鳥が一羽、とまっている。真っ白な羽根の小鳥だ。
器用に窓の縁にとまり、黒目がちな瞳でじっとこちらを見つめ何かを訴えかけている。

「…あの、ババァ。」

カカシは低くつぶやく。視線をそこから逸らし乱れた髪をかきあげて、深いため息をつきベットから起き上がった。

「人使いが荒いったらないネ」

脳裏に以前とまったく姿形が変わらない麗しい美女が浮かぶ。
その姿にカカシは毒気づいた。

小鳥は『召集鳥』と呼ばれる忍鳥だ。主に火影が、任務召集の為に使う。
火影邸や上忍の詰め所に召集する人物がいなければ忍鳥を使って、居所を探りあて召集する。
現在の木の葉の里は、五代目火影が就任してからようやく以前の木の葉に戻りつつあるが依然、様々な任務をこなす優秀な忍が少ない…いわゆる人手不足というものだ。
他国から依頼があれば上忍・中忍・下忍と分け隔てなく任務に駆り出される。
そしてやっと先日、任務から開放されたカカシにまたその召集がやってくるという事はよほどの任務に違いなかった。
例え人手不足とはいえ――また休む間もなく任務に駆り出されるのは、カカシでもたまったものではない。

――それに。

コツン、と小鳥が窓ガラスをそのくちばしで催促するように叩いた。
カカシはもう一度ため息をつくと”わかったヨ”と、いう風に片手をひらひらさせて立ち上がった。
だるい体を持て余しつつ床に脱ぎ捨ててあったパジャマの上着を取ると、そのまま袖に手を通す。
そして部屋から出て行きかけようとして、カカシはふと視線を今まで寝ていたベットに向ける。
ベットの壁側、シーツに潜り込む様に金色の髪が見え隠れしている。
その姿にカカシは複雑な表情をした。

多分。
カカシが起き上がった事も眠りの底にいる彼は知らない。
この腕でその小さな身体を抱きしめていた事も、この胸のうちに隠している”想い”さえも……彼は、知らないだろう。
そして、目覚めた時にカカシがいないとわかった時に彼は初めてひと時の安心を得るのだろうか。
(…俺もヤキがまわったねェ…)
胸の奥深くで鈍い痛みを感じて、カカシは微かに眉を顰めた。
いつも、そう思う度に空虚な闇が付き纏う。
しかしもう今となっては悔いても仕方がない事だった。

何故なら、カカシは自分の想いを秘めたままで激情のまま彼の意思を無視して脅し――そして無理矢理、身体を繋げたのだから。

カカシは彼から視線を逸らして拳を作る。
まだこの腕に、この身体に暖かいぬくもりが残っている。
カカシがずっと焦がれて焦がれて、ようやく捕まえたもの。
でもすぐに一瞬のうちに消えてしまうだろう。
(――このまま、)
ぎゅ、と拳を握って目を伏せる。
(身体の奥深くに残ってしまえばいいのに。)

この、唯一彼と共有する熱が埋火の様に、熱く熱く火傷の痕の様に残ってしまえば、いいのに。

自分の中に、彼の中に。

カカシは心の中で自嘲するとそっとドアを、開けた。
その足で火影邸に出向く為に。

白い小鳥がカカシのその姿を認めると羽ばたき、空へ飛んだ。
もうすぐ、夜が明ける。


fin.






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