囚ーtorikoー | ナノ






「あの例のガキの面倒を見る事にしたんだってな?カカシ」
アスマの言葉にカカシは、その眠たげな片目に笑みを浮かべた。



零−Reload−



その店の一角でアスマとカカシが酒を酌み交わしていた。
ここは「人生色々」。上忍や中忍が憩う居酒屋だ。歳が近い上に同僚という事もあり、2人共任務がはけた後、よくここに酒を呑みに来る。

「いくら火影様の命でも……よくそれを承知したな。」
「まぁ、火影様の命だしネ。断る理由も何もないでショ」

どこか楽しげな口調にアスマは胡散臭げにカカシを見る。
相変わらずその顔の大半を額宛とマスクで隠して、何を考えているのかわからない。
(コイツが、ねぇ……)
気まぐれなのか、何なのか。カカシが弟子を受け持つなどアスマには未だに考えられない。
今まで−−彼は弟子というものを持った事がなかった。
例え、弟子を持ったとしても何故かその先に進む事がない。
それ以上の未来がないのだ。
だから、ずっと暗部として暗躍していたのにも関わらず、今になって弟子を受け持つというのにアスマは大層、驚いたのだが……もっと驚いたのが里の 禁忌の子供をカカシが弟子として受け持つ気になった、という事だった。
聞いたところによるとその申し出を、火影自ら言い渡したというのだ。
また禁忌の子供の他に”うちは”の一族の末裔まで受け持つというのだから世の中、わからない。
(ガラじゃねーと思うんだが。)
煙草を吹かしアスマは思う。
……とはいえ、火影の命は絶対だ。ましてや、上忍であっても誰もそれに背く事はできない。例え、この目の前にいるカカシでも、だ。
(俺だったらご免こうむるな)
禁忌の子供の本質がどうあれ関わりあうのは躊躇われる。
言い換えれば カカシにしかその役目を追う事が出来ないという事か。

「なーに?アスマちゃんてば、俺がそんなに弟子を持つのが可笑しい?」

アスマの心を見透かしてか、カカシは笑いながら空になった杯に酒を汲んでそういった。

「 ちゃん付けすんな!気持ち悪りぃ。」

アスマは本気で鳥肌をたてながら怒鳴った。

「あ、そう?」
「ちっ……確かに、今頃になっててめぇが弟子を持つなんて思ってもみねぇよ。紅だって他の奴らだってその話を聞いた時にゃ目を剥いてたからな。あのカカシが弟子を立派に育てられるのか?ってな。」
「あ、それひどーい。」

アスマの言葉におどけた調子でカカシが文句をいう。

「でもサ。俺が弟子持つと将来すごい優秀な忍になると思うんだけど?まっ、こう見えても本気出せばできるし……って、あ!そうなっちゃうと後々アスマや紅が困っちゃうかもね?」
「……っ、てめぇは……っ!」

拳を握り締め、アスマは絶句する。
(コイツがいい性格だってのは、わかっちゃいるが……っ!)
カカシに何をいっても柳に風だ。
昔からこうなのだから性質(タチ)が悪い。

「別に心配しなくていーよ?」

マスクをずり下げカカシが酒を飲み干した。
長い指先で杯をトン、とテーブルの上に置く。

「俺がヤル時にはヤルってわかってるでしょ?ちゃんと立派に育ててみせるし心配はいらないヨ。」
「−−別にてめぇの心配なんざしてねーよっ」

アスマはチッと舌打ちすると煙草を灰皿で乱暴に揉み消す。
(……でも、な)
何でだか、その話を聞いてからどうにも嫌な予感がしてならない。
カカシとアスマは暗部時代からの知り合いだが、その頃からアスマが見てもカカシは何かに、深く関わることがない。素からなのか人でも物でも浅く短く……といった感じだ。
だから、なのか。自分と関わるものに対してカカシは淡白な気がする。
そのカカシが今頃になって人を……弟子を持つという事は、それらに自ら進んで深く関わっていくという事じゃないのか?
……そして 禁忌のあの子供にも深く関わっていく、という事ではないか?少なくとも、アスマが知る限りカカシは禁忌の子供とは深い因縁があるはずだ。

アスマはカカシを見た。
相変わらず何を考えているのか、どんな表情をしているのかわからない。
こうして言葉を交わし酒を酌み交わしマスクの下を晒しても、次の瞬間には当たり前の様にその大半をマスクで隠し素顔を見せない……任務が終了しても忍然としている、得体の知れない男。
……この目の前の男が人との関わりで変わるのだろうか?
人が他人と関わるならば、自然と何かが変わってしまうものだ。それがどんな風に変わるのかは誰にもわからない。
(……考えすぎか?)
アスマは眉を顰める。
弟子を持つ事によって、今のカカシがカカシでなくなる事はない。
では、自分は一体、何を恐れている?
(らしくねー……)
胸に過ぎる嫌な予感をアスマは拭いきれずにいた。

アスマは自分の考えを振りきるように煙草を一本、咥えた。
目の前に何気ない仕草でカカシが火の点いたライターを差し出す。
カカシを見ると片目がそれを促している。
すまないとそう言いおいてアスマはそのライターで煙草に火を点けた。
そして吸い込むと一息、紫煙を吐き出す。

「ねぇアスマ。」

ゆるゆると登る紫煙を見ているとカカシが口を開いた。

「あんまり考えすぎんのも良くないヨ?」
「?」

いわれて一瞬、アスマは何をカカシがいいたいのかわからなかった。

「まっ大丈夫だから」

怪訝そうな顔をするアスマに謎かけをする様に囁きカカシは片目を細めた。
瞳の奥に何かが、表れては消える。

「……そう、」

アスマは煙草を口に咥えたまま。

「願いたいものだ、な。」


――多分。
アスマはその時、確信した。
自分の嫌な予感は 当たる。そう、遠くない未来にカカシは変わってしまうだろう。

今は、何がカカシを変えてしまうのかはわからないし、知る術はない。
けれどそれを解く鍵は、

もしかしたらあの禁忌の子供と、
―――……カカシなのかもしれない。


fin.
 






site topnovellist
<<>>