囚ーtorikoー | ナノ






サスケは1人、家路についていた。

あの後ナルトが家までついて行こうかと申し出てくれたが、サスケはそれを断った。
否が応でも…あの痕に目がいってしまうだろうから。
それにとうとうその首の痕が何なのかナルトには、聞けずにいた。
(――もし、)
ふと別れ際、ナルトがサスケにいった言葉を思い出す。
(もしなンかあったら、俺を呼べよ?すぐに飛んでいくから)

「俺は女じゃないんだ。ドベ。」

脳裏に浮かぶその心配そうなナルトの表情に、サスケはそうつぶやいて苦笑する。
サスケは、ナルトにあんな表情をさせたくなかった。
けれどもナルトが自分を心配してくれているのが嬉しいとも思ってしまう。
自分に向けられるその想いが…嬉しいと。
反面、自分の秘めた想いを伝えていないのに、こうして想うだけで振り回されている。
サスケは星もない空を見上げて自嘲する。
(……修行不足、だな)
ナルトを好きだと気づいたのは、一生の不覚なのかもしれない。
例えナルトが誰かのものになっていても、きっと一生、自分はナルトの事を思うのかもしれない。

自分の想いを伝えなくとも。



「あれ?サスケじゃない」

闇に生まれた言葉にサスケが視線を向ける。
いつの間にかカカシが闇の向こうから現われてこちらに歩いて来る。
あの日以来、逢う事はなかったのに嫌なタイミングで逢ってしまった。
サスケは内心、舌打ちした。

「今、帰り?」

眠たげな片目をサスケに向けてそう聞いてきた。

「……あぁ。」
「ふーん、珍しいね。こんな時間に。」
「アンタは今、任務帰りかよ?」

気安く話しかけるカカシにサスケは、目を細めた。
微かにカカシの体から錆び付いた匂いがする。闇に紛れて見えないが多分、カカシの忍服は多少の返り血を浴びているはずだ。
サスケのその問いにカカシが咽喉で笑う。

「ま、そういうことだネ。」

のほほんとした口調でカカシはそういった。
サスケはどこまでも胡散臭い男だと、ちらりと思う。

「おまえは何処かで酒でも飲んでたの?」
「……あぁ」
「ふーん?珍しいこともあるんだネ〜じゃ今度、俺とも付き合ってヨ。」

カカシが笑った。
思いがけない酒の誘いにサスケは無言でカカシを睨んだ。そして。

「お断りだ。」

カカシの側を通り過ぎてサスケはそう返事した。

「ハハハ、つれないなァ」

背中越しにカカシが愉快そうにそう声をかける。
サスケはそれを聞かないフリをした。




数秒後、カカシはサスケの後ろ姿が闇に消えるのを見ていた。
やがて軽く肩を竦める。

「ホントつれないよネ……」

その片目に一瞬、笑みが浮かんで消える。
実をいうと、カカシはサスケが誰と飲んでいたかなんて本当は知っていた。
それを知っていて知らないフリをしていたのだ。
別にサスケにそれを問う必要もないし、当のサスケだって聞かれたくもないだろうから。そしてカカシは首の 項(うなじ) を、手で軽く撫でる。
(サスケはどう思うかねェ)
脳裏に浮かぶ愛しい子供の姿を浮かべて、うっすらと笑う。

もし。
もしもナルトとの関係をサスケの前で話したなら、どんな表情をするのかカカシはとても興味がある。
ナルトを、 カカシから助け出すんだろうか?
予想しなくとも多分そういったならサスケは絶対そうする。
カカシに勝ち目はなくともサスケは命がけで、ナルトを逃がそうとするだろう。
妄信的で幼い恋は、平気でそういう事を人にさせてしまう。
ましてや初めての恋ならば……
(ナルトはやらないよ)
サスケがナルトの事を想っていようがなんだろうがあの子供は自分のものだ。
この手から手放す気などカカシにはサラサラない。

例え、サスケをこの手で殺し
ナルトが嘆こうとも――…手放してやらない。

そう。
今も、これからも……

やがてカカシは踵を返すと、そこから歩いて行く。
自分の家に帰っているだろう、金色の子供をこの血で濡れた両腕に抱く為に。





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