囚ーtorikoー | ナノ






あと 1 【跡/▼迹】
〔「足(あ)所(と)」の意〕

(1)足で踏んだ所や車の通り過ぎた所に残るしるし。
(2)ある事が行われた、あるいは存在したことを示す証拠。また、その場所。
(3)人の残したもの。


「ナルト」
「?サスケ?」

任務明け。名前を呼ばれ、次の瞬間に腕を引かれてナルトは振り返る。
振り向くともう帰っているはずだと思っていたサスケがナルトを見ていた。

「おまえ、これからもう家に帰んのか?」
「…うん?そうだけど。」

突然そういわれたナルトは怪訝そうにサスケを見やる。
おかしなことをいう…内心そう思った。

「じゃあ、晩飯おごるから俺に付き合えよ。」
「はぁ?!」

その言葉にモノの数秒程ナルトは固まった。目を見開いてびっくりしているナルトにサスケが微かに眉間を寄せて、絶句する。

「…おまえ、」
「だって、」

ナルトはサスケのその反応に苦笑しながら頭を掻いた。

「そんなんおまえから、晩飯なんて一度も誘った事ねーじゃんか!びっくりするのは当たり前だってばよっ?」

いつもなら任務明けは2人して別々に帰宅する。
その帰り際に一緒に何処かへ寄り道をする事など一度もなかったし、誘う事も誘われる事も皆無に等しい。だからナルトがサスケのその誘いに驚くのも無理はない。

「それはもういいから…行くのか?行かないのか?」

サスケが話を引き戻すようにナルトにそう促した。
ナルトは少々、考えていたが何も断る理由もない。

「いいってばよ。俺もラーメン食いに一楽に寄るつもりだったし。」

そういうとナルトは笑った。
ナルトの笑顔にサスケは少しだけ緊張の糸を解いた。
本当は、ナルトを食事に誘う事など初めてだったし何よりどういえばいいのか、わからなかったのだ。
それに誘ったとしてナルトが受けるか受けないかも怪しかった。
(……心配しすぎたか。)
こうしてナルトが嬉しそうにしていると、サスケはそれが自分の思い過ごしだったかもしれないと思った。

「なぁ、ホントにおまえのおごり?」

嬉しそうに隣を歩くナルトがそう聞き返す姿に苦笑する。

「男に二言はないぞ。」
「やりーっ!」

小さく拳を握ってガッツ・ポーズをする。
ふと何かを思い浮かんだのかナルトがその蒼い瞳を向ける。

「で?何処行くんだってば?」
「ムラサキっていう居酒屋。」
「へぇ、居酒屋!なンか意外だ。」
「なんでだ?」

怪訝そうにサスケがナルトにそういった。
ナルトはサスケを見て頭の後ろで両腕を組んだ。

「だって、いっつもおまえすぐに家に帰るじゃんか。先輩連中が居酒屋に誘っても断ってばっかだし?酒飲めないんじゃないかって勘ぐってたってばよ。だからそのサスケが居酒屋っていうからさぁ。」

そういいながら悪戯っぽく笑いかける。
少なからずその他の中忍達やナルトにそう思われていた事にサスケは多少、驚く。

「…俺だってたまには行く。」

ぶすっとした表情でサスケはそう返事した。
別に酒の席が苦手だというわけでもないし、酒もそれなりに 嗜(たしな) む。だが、連れを伴って飲みに行くというのがあまり好きでないだけだ。

「わかってるって」

ナルトがトン、と軽くサスケの肩を叩いて前に歩いて行く。そして振り返ると。

「じゃ早く行こうってば。俺ってばもう腹がペコペコなんだってばよ!」
「…現金なヤツ。」

サスケはその後姿を見てフ、とため息をつくと微かに笑った。



居酒屋の中は活気が溢れていた。 老若男女の笑いさざめく声と話し声、そして食べ物の匂いと煙草の煙が充満している。
数分後サスケとナルトはその店内の一角、一番奥の座敷に陣取っていた。
大きな木目調のテーブルを挟んで壁側にナルト、衝立を背にサスケという位置付けで座っている。
時折、2人で注文したものに箸をつけ酒を飲み交わし、他愛のない話をしていた。

「それにしたっておまえ酔わないな!」

既にビールを2、3本飲んだせいかほろ酔い気分のナルトがコップにビールを注ぎながら、涼しい表情のサスケを見る。

「そうか?」
「そうだってばよ〜。強いじゃんか。」

誰だってば、サスケは酒飲めないっていったのは〜とぼやき頬をピンク色に染めながら、ふにゃりと笑う。サスケは箸を持つ手を止めて。

「おまえが弱いんだよ、ドベ。」


「うわっ、ドベっつーなっ!」

そういいながら、つまみを箸で口に運んだ。ぶぅっと唇をすぼめてナルトが怒る。
そんなナルトを見てサスケは笑いながら箸を置き、ビールを飲む。

「……良かったな」
「は?何が」

ナルトが、ん?という風に見る。
サスケはその視線に躊躇いがちに口を開く。

「いや…だいぶ調子イイみたいだから。」

その言葉にナルトは考え込む様にしばし瞬きをした。暫くしてあぁ、とその言葉の意味がわかった。
(…サスケ覚えてたんだな)
サスケは一ヶ月前のあの日のことをいっているのだ。

あの日ナルトはカカシの家から体を押してまで任務へと行こうとした。その道すがら偶然サスケに出会って、そのままアカデミーの保健室に無理矢理に連れて行かれてその日の任務を休まされたのだ。

その後、ナルトはサスケから問いただされるんではないかと思っていたのだが、それ以降はサスケもあの日の事を何もいわなかったし、いつもと同じ様に自分と接していたからその事は忘れたのかと思っていた。






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