囚ーtorikoー | ナノ






しばらくして、廊下のひんやりとした冷たさに気がつきナルトは顔を上げた。
ぼう、としながら目を擦る。ほんの少し目が慣れてくると周囲の輪郭がぼんやりと浮かび上がってきた。
夜には夜の、朝には朝の独特な雰囲気というものがあって今はまだ薄暗いけれど朝が近いのだとナルトに感じさせた。

「…さむっ」

冷たさに身体が震える。
途中からぷつりと記憶が途切れている。
あれからどうなったのか、ナルトは覚えていなかった。
少し考えればまだあの時間から、そんなに経っていないのかもしれない。
経っているのかもしれない。
耳を澄ましてみる。
襖の向こうからは何も聞こえない。けれど人の気配は、する。
(…終わったんだ)
ぼんやりと、そう思った。

どうして。
どうして自分はこんなところにいるんだろう。
こんなところにいたって仕方ないのに…どうして?
あの時に逃げようとすれば逃げれた。チャンスだった。
それなのに……それなのに、自分の思いとは裏腹に足は動けなかった。 動くことができなかった。
ナルトは項垂れたまま、頭を左右に振る。


”お前、俺のものになりな。”
”中忍になっても俺から手放してやらない。”


思い出すのは『あの時』のカカシの言葉。
『あの時』―中忍試験に合格した晩、カカシは自分にそういった。


”お前の大事なもの全部、この手で壊せるよ”


すべては『あの時』から始まった。
イルカを楯にナルトはカカシの『囚』になった。

カカシにとって『自分』は一体なんなのだろう。
翡翠の前で酷い事をいうかと思えば、こうして自分を探し出す。カカシの行動はナルトには理解できない。

あの時に知った行為の後の、自分を労わる様なカカシの腕の暖かさ――…あれが意味するものはなんなのだろう?
カカシにとって自分がどうでもいい『存在』なら、いっそのこと放ってくれればいいのに知らないままでいたらナルトはカカシの事を酷い男だと嫌らえるのに、どうして……
…そこまで考えて。
思い出した様に疼く胸の棘の痛みをナルトはそっと右手で押さえた。

スッ…と襖が音もなく開いた。それにナルトが反射的に振りかえる。

「――…」

そこにはカカシが立っていてナルトを見下ろしていた。
(…せんせ…)
女を抱いたその後にも関わらず−−カカシは衣服を乱してはいなかった。その姿を見てナルトは何故だかホッとする。
するとカカシと目が、あった。外気に唯一晒された右目が、ナルトの姿を映す。
冷たい瞳。その向こうに揺らぐ炎が見えた。
それを見た瞬間にあの日の記憶がフラッシュバックの様に蘇る。

「…っ」

ナルトは素早く立ち上がると身を 翻(ひるがえ) してカカシから逃げようとした。その途端にカカシに腕を掴まえられる。

「や、だ…っ」

嫌がって暴れるナルトの腕を強引にカカシは、自分の方に引っ張りこみナルトの小さな顎を右手で掴み上向かせる。

「…ぐ」
「そんなに嫌がんなくてもいいでショ?」

苦痛に歪むナルトの顔を見てカカシが笑った。

「ねぇ、そんなに気持ち良かった?」

至近距離でナルトの蒼い双眸を覗き込んで囁いた。
突然、いわれた言葉にナルトはいったい何をいわれたのかよく理解できずに怪訝な顔をする。

「…ぁ、な…に?」
「わかんない?」

カカシは何かを怒っている様だった。
何にカカシが怒っているのかわからずナルトは力なく首を振る。

「あの女に咥えられて気持ち良かったんでしょ?」
「あぅ…」

ギリ、とカカシの指が肌に食い込む。ナルトは苦しげに眉を寄せる。

「ねぇ?気持ち良かった?」
「…っ、」

そしてようやくカカシのいわんとしていることにナルトはふと思い当った。
女がしてくれた行為を思い出して顔を瞬時に赤くする。
アレが気持ち良くなかったといえば嘘になる。
しかし何故それでカカシにこんな風に言われなければならないのか?ナルトにはそれが不思議だった。

「…ホントお前って正直だよね。」

カカシは顔を赤く染めるナルトを見て苦笑する。
次の瞬間、カカシが噛み付くようにナルトに口付ける。

「…う、ん、ぅ」

突然の行為にナルトは目を見開き、顎をそらそうとしたが食い込むその指はビクともしない。
それ以上にその抵抗を封じ込める様にカカシはナルトを追い上げる。
カカシの舌が、ナルトの口腔内を蹂躙する。時に歯列を舐め、時にナルトの舌を絡めとる。呼吸する間も与えず、息も満足にさせてくれない。
膿んだ熱の様なカカシの口づけにナルトは、意識を持っていかれそうになる。

「う、あぁっ…ふ…っ」

唇の端から生ぬるい唾液が無防備に晒された首筋を零れ落ちていく。それを感じてナルトの肌が粟立った。

「!?」

やっとカカシが唇を開放したかと思うと、その唾液を追って首筋へと移動する。

「や…っ」

肌に唾液とカカシの唇の感触を感じてナルトは首を竦め、頬にあたる銀色の髪を掴み思い切り引き剥がそうとした。
だが、カカシの力は強くそれ以上にナルトの自由を奪う。
激しい波に攫われそうになる瞬間、ナルトは急に我に返った。
襖の向こうにはカカシとの行為で疲れただろう女が眠っている。
その現実にナルトは背中に震えが走り、これからのカカシの行為に慌てた。

「やだっ、やめ…っ、やめろ!!」
「――うるさいよ。」

無闇に両腕を振り回し激しく抵抗するナルトにカカシはちっ、と舌打ちすると乱暴にその首筋を反らせ噛み付いた。

「痛…っ」

首筋に奔る鈍い痛みにナルトは悲鳴を上げた。
滲む視界に銀色の髪が映る。

「…お前が、誰のものなのか」

唸る様なカカシの声がナルトの上に降ってくる。
ナルトは反射的にカカシを見上げた。見上げる視線と見下ろす視線が絡まる。
カカシがナルトの顔すれすれに近づくと何事かを囁いた。
聞こえなかったのかナルトは怪訝そうに眉を顰める。

「!!」

その瞬間カカシがナルトを廊下に強引に押し倒した。

「や、ぁ」

暴れるナルトの身体を乱暴に床に押し付け、その忍服のズボンを引き摺り下ろしていく。その冷たさにぞくり、と肌が震える。
突然の冷たい外気にナルトは上半身を逸らせた。
「やだっ、やめろってばっ…!」

ナルトは叫んだ。カカシから逃れようと身体を捩るのだがそれが適わない。
露わになってしまったナルトの両膝に手を入れて立たせ、カカシが両足を肩に担ぎ腰を浮かせる。そして。

「―――っ!」

何の潤いもないそこに、カカシが強引に入り込んでいく。
徐々に切り裂く勢いで、激しい熱と大きな痛みがナルトの内側を進む。

「あぁ…っ、ぁ」

ナルトは耐え切れずに声にならない悲鳴を上げた。
進み入り込むものにナルトは目を大きく見開いて上半身を強張らせる。

「…く、っ」

自分の身体が反応するたびに痛みがナルトを苛み、潤いのないそこは執拗に異物を排除しようとしていた。
カカシがそのキツイ締め付けに眉を顰めたがそれでも無理やり己を押し進める。
……そうする内にやがて内側が変化し始めて、カカシ自身をスムーズにし出した。
嗅ぎ慣れた錆付いた匂いが周囲に漂いだす。カカシは押し進めながら組み敷いたナルトを見下ろした。
自分の身体の下でナルトが苦痛に顔を顰め、その眦に涙を浮かべている。

「…っ、ぐ…ぅ」
「……」

歯を喰いしばり痛みを堪えるその唇に、カカシは何を思ったのか軽く口付けた。
その優しい感触にナルトが涙に濡れた瞳をうっすらと開き、カカシを見上げる。
カカシの顔が、オッドアイの瞳が滲む視界に映る。
(…カカ、シ…センセ)
カカシの、綺麗なその冷然とした表情。
そしてどことなく、翳りのある様な哀しい表情をナルトはその時、初めて見た。
ナルトの中で内側の痛みとは別の痛みが走る。

−−どうして?
ナルトは心の中でつぶやく。

どうして、俺を抱くの?
どうして、こんな行為の時にそんなに優しくするの?

内側のカカシ自身を感じて、ナルトは泣きたくなる。
この 行為の意味を知りたくなる。

――…けれど、もし。
もし俺が、嫌いなら、
−−−もう、

「…っ、」

ナルトは苦痛に苛まれながら両腕を伸ばしカカシを懇親の力で押しのけようとした。

「…お前は、誰にもやらない。」
「!…ぁ、」

カカシがそうつぶやいて、両腕を再び廊下に縫いつけた。
逃げを打とうとした最後の抵抗を封じ込める様にその身体の中に一層、己を埋め込み強く腰を動かす。

「ああああああ…っ!」

痛みと激しさに、ナルトは身体を仰け反らせ悲鳴を上げた。
無意識にその動きがカカシを助ける事も、無意識に奥深く眠れる快感を促す事もナルトは知らない。

世界が、カカシに塗り替えられていく。
この胸の痛みも、何もかも…もう何も、考えられない。

ひっきりなしにナルトは声を上げ続けた。
その声はもう痛みを表すものではなく、甘く切ないものに変わっていく。
ナルトの声を聞きながらカカシは、その錆付いた様な匂いを纏う身体を抱き締める。



…そう。
その痛みが、植えつけた『快感』に変わるまで。






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