囚ーtorikoー | ナノ






「やーっと見つけた。」

カカシが固まっているナルトに声をかけた。
(なん、でここに…)
先ほどまでの快感の波が、カカシの姿を見た途端に一気に引いていくのがわかる。
カカシが自分とこの女との行為をその闇の中で見ていたという羞恥よりも何よりも今、目の前にいるのがナルトには信じられなかった。

何故、自分がここにいるとわかったのか。
今頃、カカシは翡翠といるはずだと思っていたのに…どうして、ここに?


「…んで、カカシ先生が」

思わずナルトはそうつぶやき、キッと睨みつけた。

「ここに、いるんだってば?」
「え…っ?!カカ、シ?…カカシって、」

『カカシ』という名前に反応を返したのは女の方だった。

「あの、噂の…?」

女はカカシの名前を聞き及んでいるらしい。
ナルトを見、そして狼狽した様にカカシを見上げる。

「え、じゃ、じゃあ…アタシ達、の」

それ以上、いえなくて女が口を噤(つぐ)む。
するとカカシが屈んで女を見て微笑む。

「無粋なことしてごめーんネ?アンタには用がないんだけどサ。コイツには用があったもんだから」

カカシの言葉に女が顔を真赤にして息を呑む。
そして傍らのナルトを信じられないように見て。

「じゃあアンタも忍者なのかい?」
「……」

女の問いかけにナルトは答えない。

「そ。そんなわけで急用だから、コイツ連れてくヨ?」

カカシの手がナルトの左腕をとろうと伸ばす。その途端にこ気味いい音が響き渡った。
捕まえようとするカカシの手をナルトは叩き落としていた。乾いた沈黙が一瞬、漂う。
驚いた様に女がナルトを見るが、ナルトはカカシを睨みつけたまま。

「アンタとは行かない…っ」

そう叫んでいた。
あの時以来、初めての抵抗らしき抵抗だった。
このままカカシについて行けば、どうなるのかは嫌というほどナルトにはわかっている。それでもナルトはカカシの事でもう傷つくのは嫌だった。

「アンタとは行かないっ!!!」

その様子を見たカカシは可笑しそうに咽喉で笑った。

「…!!」

突然、目の前が反転した。
一瞬ナルトはそのカカシの行為をはっきりと理解していなかったが。

「やっ…!!降ろせ…っ」

カカシがナルトの身体を肩に担いでいた。
抵抗するもいとも容易くカカシに担がれたと思ったナルトはカカシの肩の上で暴れた。

「降ろせっ、降ろせってばっっ!!!」
「じゃあ、悪いけど連れてくヨ?」

ナルトの抵抗など大したものではないという風に飄々とした態度で、カカシは女にそう告げる。

「やだっ…やだってばっ!!」

カカシの肩の上でナルトは喚き、足掻いていた。その抵抗も適当にあしらわれて通用しない様だった。
(ちくしょう…っ)
悔しさで泣きそうになるのを、ナルトは歯を食いしばって耐えた。

何をしても、カカシには敵わない……
どんなに、逃げ出したいと思っても…自分には何の術もない。思い知る度にナルトは自分に失望した。

「ちょっ、ちょっと待ちなよ…っ」

ナルトを担いだカカシが襖を開けて廊下を出て行きかけたその時、女が呼び止める。
カカシがゆっくりと女を振り返った。担がれているナルトも驚いて女を見る。

「…何か用?」

その飄々とした口調と態度にたじろいだ女が息を呑む。
カカシが自分を見ているのに少々、躊躇したが思いきった様に口を開いた。

「アンタ、さっきからあたし達の行為を見てたんだろう?」

引きつった笑顔を浮かべて肌蹴た襟元を繕うと虚勢を張った。
女は立ち上がり、カカシの腕を掴むと意味深に見上げる。

「楽しんでいたところを邪魔されたんだよ。邪魔してハイ、じゃあ連れてくよで終わりなんて虫が良すぎるんじゃないのかい?」

女の言葉にカカシの片眉が上がる。
(それ、って)
ナルトは女を凝視した。
いくら鈍感なナルトでも女のその言葉にどんな意味があるのか、想像はできる。
コトを台無しにした代わりに女は、暗にカカシに抱いて欲しいといっているのだ。
では、カカシはその言葉をどう受け止めるのか。
(…カンケーないっ、てばよ)
カカシが女を抱く、抱かないはもうナルトには関係ない。
今なら逃げ出せる。

…それなのに。

ズキリ…とナルトの胸に刺さった棘が鈍い痛みを訴える。
(なんで…っ)
その痛みにナルトは顔を顰める。
自分でもわからないこの、棘の痛み。
どうしてカカシがいるだけで……こんなに痛みを訴えるのか。

「じゃあ何…コイツの代わりにアンタを抱けってコト?」

沈黙の後カカシが口を開いた。
それを聞いた瞬間にナルトは息を止める。

「そうよ。チャラにする代償よ。安いもんでしょう?」
「…ふーん」

カカシは何を思ったのかゆっくりとナルトの身体を下に降ろした。

「別にいーよ。」

ぽつんといわれた言葉にナルトは信じられないようにカカシを見た。
しかしカカシの視線は女を見たままナルトを見ない。
それを感じた瞬間また、あの胸の棘が痛みを訴える。

このまま、カカシは女と――……

「…せ、」

ナルトは知らずカカシを呼ぼうとしてそれに思わず口を 噤(つぐ) んだ。
カカシを今、止めようとしているのが自分でも分かって戸惑った。


…でも、嫌なのはわかる。
カカシに行って欲しくないのが…わかる。

行って欲しくない……
行って欲しくない……

それは、カラカラに乾いた咽喉の奥で言葉にならず空回ってばかり。

「ナルト」

カカシがナルトを見た。

「隣で待ってろ。…すぐ終わる。」

そういいおいてカカシは女を促して部屋へと入っていく。
(…あ、)
目の前で閉まる襖にナルトは目の前が暗くなる。

あの襖の向こうでカカシが女を抱く。
抱いてしまう。
自分を抱く様に、その腕の中に閉じ込めて。

少しすれば、きっと――……

「……っ」

拒絶する様にナルトはきつく目を閉じ唇を噛み締め、冷たい廊下にずるずると座り込むと両膝を抱え込んで両耳を塞いだ。
(や、だ……)
微かな衣擦れの音が響き女の密かな息遣いが襖を隔てた奥から聞こえてきた。
(……やだ…)
何も聞こえない様に耳を塞いでも…過敏な神経はそれを拾ってしまう。
(……っ)

きつくきつく。目を閉じてナルトは耐え忍んだ。
襖の向こうのカカシを思い浮かべない様に。






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