囚ーtorikoー | ナノ






(…えっ?)
そこまで考えてナルトは我に返る。
(今、自分はなんて考えた?)
またチクリ、と痛み出して知らず右手で心臓を押さえる。
(俺ってば、いったい…?)
手で押えるその内側から鼓動が、早鐘のように高鳴っているのを感じて 狼狽(うろたえ) る。
自分で考えたとはいえ今一体、何を考えたんだろう。

「ねぇ」
「え」

慌ててナルトを見ると女がじっと見つめている。

「アンタ、どうしてこんな 花街(トコ) にいたんだい?見た感じ場馴れしてるワケじゃないんだろ?」
「あ、」

その言葉にナルトは一瞬、言葉を失いそして躊躇う様に口を開いた。

「…それは、俺が初めて来たから…」

そんな事をいいながら自分の顔が赤くなってきているのを感じる。

「おや、じゃあ初めて女を買いに来たのかい」
目を見開く女にナルトは頷いた。

「ふーん。どうりでねぇ。」

合点がいったという風に女がそれに頷く。

「それで?」
「?」
「女は買えたのかい?」
「うん……へ…っ?!」

悪戯っぽく問いかける女にナルトは素っ頓狂な声を上げてしまった。

「だから、女を買えたのかい?と聞いたんだよ。」
「あ、あの…っ」
「どうなんだい?買えたのかい、買えなかったのかい?」

焦っているナルトを余所に女がそうたたみかけずい、と好奇心をその瞳に浮かべてナルトのそばに擦り寄った。
ナルトは顔を真っ赤に染めじっと俯むきながら小さい声で何事かをつぶやいた。
女が顔を覗き込む。

「はぁ? なんだい?」
「…だ、からっ…なかった」
「聞こえないよ」

その苦笑するような声音にナルトはきっ、と真っ赤な顔を向けて。

「だからっ買えなかったんだってばっ!」

そう叫んだ。
ナルトのまるで一世一代の告白にくすくすと女が笑った。

「そうかい。まだなんだぁ。」

女のひやかしにナルトはぎゅっと唇を噛んで、また俯いた。
なんだかバカにされたみたいで、ちょっとナルトはムカついた。しかし、それは自分でも半ば仕方ないと思う。元々ナルト自身に女を買う気がないのだから。
(…でも、笑うことないってば)
とはいえ『まだなんだ』といわれれば、なんとはなしにいい気がしない。
自分を知っている者ならまだしも、身も知らぬ女にいわれるのはナルトの本意ではないから。

「…なら、教えてあげようか。」

その言葉に反射的にナルトが女を見た。
鼓動がその瞬間に跳ね上がる。
いつの間にか。至近距離に女の、白い顔があった。とぎまぎしながら、自然に口紅を塗って艶めく唇に目がいってしまう。
視界いっぱいに紅く濡れたその色が広がったと思うと、ゆっくりとその唇の端が吊り上り笑みを形作る。

「…っ」

ハッとそれに気づいたナルトが慌てて顔を背けようとした。すると白い両手がナルトの頬を捉える。戸惑いに揺れる双眸を女が覗き込む。

「アタシが教えてあげるよ。」

ぞくぞくする様な、甘い言葉を紡いでゆっくりと女の紅い唇が動いた。ナルトはその妖しげに動くその紅い唇から目が放せなくなった。
頬に触れてくる手から熱が生まれて体の何かを呼び覚ましていく。


身体に纏わりつく香の匂いに……ナルトは、動けなかった。






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