囚ーtorikoー | ナノ






「……」
「カカシ何を、」

翡翠がナルトを庇う様にしてカカシを見る。

「何をいうんだい?この子は、」
「わかってるよ?でもココはそういう街だろ、翡翠。」

カカシが笑う。
そして、ナルトをまっすぐ見た。

「じゃあサ」
「!?カカシ」

不意に翡翠を胸に引き寄せて、カカシがナルトを見据えた。

「今後の勉強として俺と翡翠の行為でも、見る?俺、上手いよ?」
「なんてこというの…っ」
「いいじゃない。見せてあげようよ。担任としての最後の授業だ。」

翡翠が絶句した。
ますます顔が赤くなるナルトの表情を見てカカシが片目で笑う。

「バカなことおいいでないよ、カカシ!」

翡翠がカカシの胸から逃れようとして身を捩るがカカシがそれを許さない。

「…来い、ナルト。教えてやるよ。」

片手をナルトの前に差し伸べる。
ナルトはその手を凝視した。

逆らえない、言葉。そして、自分を縛る呪縛。
無意識にふらふらとその手に行きそうになる自分と、それを引き止めようとする自分がナルトの中で葛藤していた。

…いつまで、この人のいうことを聞かなければいけないだろう?
あの日から、カカシに縛られて。あの日からカカシに翻弄されて、振り回されて。

いつまで?いつまで自分は……
ナルトはカカシ達から視線を逸らし唇をきつく噛んで俯いた。

「カカシ一体どうしたっていうんだい?急にそんなこというなんて、」

翡翠がカカシをなじった。しかしカカシは答えない。

「じゃあ、おまえ、なんでこんなトコに来たの?」

俯いているナルトに向かってカカシがそう聞いた。

「……」
「女買う気がないなら…消えろ。」
「カカシ!?」
「…っ、」

そのカカシの声にナルトは弾かれた様に店を飛び出した。

「ちょっ、」

翡翠が慌ててその後を追おうとしてカカシに腕を捕まえられた。

「カカシ?!」

翡翠はカカシを振り向いた。

「なんであんなヒドイことを…っ」
「ほっとけば」

カカシはいつもの飄々とした態度で翡翠を見ている。
その態度に何もいえずに翡翠は口をつぐんだ。

どこか…そう、彼は『変わって』しまった。
表面上は変わらない様に見えてもその心の奥では、『変わって』しまったのだと翡翠は思った。
それを一番、よく知っているはずのカカシも気づいていない気がした。


(なんで…っ、なんでっ)
ナルトは歯を食いしばりながら、夜の花街を闇雲に走っていた。

「!!」

その時、右肩に鈍い衝撃が走る。

「気をつけろ!バカ野郎!!」

誰かにぶつかってそう文句をいわれたけれど、ナルトは構わず走っていた。
(なんで、なんで、なんで…っ!!)
悔しさと怒りと哀しみでナルトの心は張り裂けそうになる。

視界を通り過ぎていく景色、通り過ぎる人・人・人。
自分を見つめる視線・好奇の視線がカカシのそれと重なる。
(な…んでっ)

胸が痛くて。
刺さった棘が疼いて、痛くてどうにかして欲しかった。

何故、カカシは自分を抱くのだろう。
それはあの日から、いつも疑問に思っていた事。
ナルトとて、その行為が男女間でしか成立しない事を知っているし、同性間でも行われる事は知ってる。

自分の性を開放する為の行為と、愛情を知る為の行為。
そのどちらかしかないのにカカシがナルトに対する行為は、そのどちらでもない気がした。

現にカカシは花街にいて翡翠をその腕に抱くためにいる。
男のカカシが女の翡翠を抱くのなら、それが性処理でも、愛情でも……自然というべき行為。

それなら、そのどちらでもないその行為をどうして自分にするのか?

どうして自分を抱くのか?
カカシは自分が嫌いなのか?
それとも自分が九尾だから?

いつも、いつもそう考える度に胸に刺さった棘が、疼く。

「…っ!?」

その瞬間ナルトの足が何かに躓(つまづ)いた。
反転する視界に思わず目を閉じ、次の瞬間には鈍痛に顔を顰めた。

「……痛っ」

ナルトは目を瞬(しばたか)かせた。もう、これで転んだのは何回目なのだろう。

「ば…かみて…ぇ」

ナルトは苦笑した。
何度、願っても願っても。もうあの優しい頃には戻れないのに。
どこか、まだ戻れるんじゃないかと願っている自分が…いる。

「…ばっかみて…」

ナルトは片手で痛みを訴える胸を押さえた。
それでも、棘は疼いて痛みを訴える。

「…ばか、みてぇ…」



蒼くけぶる双眸から頬に一筋の涙が零れ落ちていく。
ナルトは自分でそれに気づかないまま、呆然と空虚な闇を見ていた。







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