囚ーtorikoー | ナノ






(!!)
ナルトは不意に降ってきたその声に耳を疑った。
(…この声)
まさか、とナルトは思った。嫌な予感が胸を過る。

そんなわけない。
こんなところにいるわけが、ない。
(違…う)

「カカシ。」

翡翠がその声をの主を呼んだ。親しい間柄だとわかるその声音。

(…違う、違う)
ナルトはその方向へ視線を向けたくなかった。
(見たくない、見たくない、見たくない…)
ナルトはぎゅっと目蓋を閉じた。

夢だと、思いたい。
翡翠の約束の相手が、あの人だと絶対に思いたくない…。
気配がゆっくりと近づいてきてナルトのすぐ背後に来た。そして。

「…ナルト?」

……空気が変わった。自分の名前を呼ぶその声にナルトは戦慄(わなな)く。

「あら、カカシの知り合い?」

翡翠がカカシにそういった。

「あぁ…俺の『元教え子』だよ」
「教え子?あぁ、初めて弟子を持ってたっていってたね。この子がそうなの?」
「うん、そうーー」

元教え子、という言葉にナルトの鼓動が早くなる。
カカシの手が肩に置かれる。冷たい手の感触がナルトに伝わってくる。
微かに震えながらもナルトは息を潜めた。

「俺の可愛い弟子さ。でも、翡翠」

からかうような口調でカカシがいう。

「イケナイなぁ。こんなイタイケなガキを連れ込み茶屋に連れてきちゃダメでしょ?」

その言葉に翡翠が苦笑した。

「あら、そうじゃないのよ。ぼうやは私の前に人込みに押されて倒れこんできただけだよ。あまり人込みが好きじゃなそうだし…ほとぼりが冷めるまでココに」

「ふーん。まかりなりにも『忍』なんだけどねェ」

肩に置かれたカカシの手が遠のいた。それにナルトは安堵した。
しかし、背後にカカシの視線と気配を感じて居たたまれなくなる。


あまりにも翡翠が普通に接してくれて親切にしてくれたから。
ココはそういう所で、そして女を買うという目的の為に自分がいることを今まで忘れていた。

そして。
何よりカカシが『女』を抱く為にココにいる事が、ナルトの心の中に戸惑いといつも思っていた疑問を抱かせる。

(なんで…)
一番、会いたくない人に会ってしまったのか。よりにもよって、こんな場所で。

…けれど今は早くこの場を離れたい。カカシから離れたい。
そんな衝動にナルトは駆られた。

「ぼうや…じゃなかった。ナルトっていったね?」

翡翠がナルトを気遣う様に顔を覗き込む。

「ごめんよ?まさか、こんなところで元先生に会うなんて思いもしなかったろうね。」
「翡翠さん」
「カカシの弟子だってわかってたら、」
「や、そんなことないってばよ…」

ナルトは翡翠に否定する様に頭を振った。
でも上手くそれが伝えられない。

「じゃあ、なんでこんなトコに来たの?」
「!!」

突然カカシが聞いた。ナルトが反射的にカカシを見る。
絡み合うカカシの視線は冷たく、何を考えているのかわからない。

「『女』を買いにココに来たんでショ?ナルト」

カカシが次に紡いだ言葉はナルトの心に爪を立てた。





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