囚ーtorikoー | ナノ






「ちょ、ちょっとごめんなさいってば」

ナルトは人込みの中をかき分けて行く。

「翡翠!!」
「翡翠姐さん!!」

そんな声が飛び交う中をナルトはその姿を見ようと試みるが、やはり視界は閉ざされたまま。
(ラチがあかないってば)
その姿を見たいのに見れないという状況にナルトは舌打ちしてまた人込みをかき分ける。
(でも、どんな女(ひと)なんだろう)
好奇心だけでナルトはその翡翠を思い描いた。

ようやく人ごみに見え隠れするように開けた空間が見える。
見つけたそこにナルトは進もうとして……背中に鈍い衝撃が襲った。

「ぅわわっ?!」

突然、前に行こうとする人の流れに押されてバランスを崩して前へと倒れこみ、四つんばいになってしまった。
あっという間の出来事に何が何やらよくわかっていないナルトは、思わず呆然としてしまう。
(な、何が起きたんだってば…?!)
混乱するままに、両膝に鈍痛が走った。

「つっ、」

ナルトは眉を顰めた。
すると一瞬、陰が頭上を覆った気がして。

「−−大丈夫かい?」

(え、っ?)
突然、ふってきた柔らかな言葉と甘い花の香りにナルトは顔を上げた。
そばに女が屈んで自分を見ていた。自分を見下ろす碧眼の視線と目が合ってナルトは大きく目を見開く。

その時、ナルトの耳から周囲のざわめきが消えた。

女は。
白く透けるような肌と、しなやかな肢体を地味な色合いの着物で包み、漆黒の長い髪を結い上げ、その面は小さく左右の柳眉は弧を描き、その下の長い睫毛に縁取られるその双眸はナルトと同じ碧眼。
すっと伸びた鼻梁、紅い花が咲いた様な艶やかな唇。ひとつひとつが端正な人形の様に纏まっている。

ナルトが知っている上忍の紅も妖艶な美女だが、この女は湖面に揺らぐ月の様な静かな美しさがある。

「ぼうや大丈夫かい?」

柔らかな口調と共にナルトに向かって差し伸べられる細く白い手。
しばし見惚れていたナルトは、ハッと我に返って顔を紅くした。その途端に周囲のざわめきが耳に戻ってくる。

「立てるかい?」
「…あ、はい…」

目を細めて女が花が綻ぶ様に微笑む。少しだけ躊躇って、その白い手をとるとナルトは立ち上がった。
同時に女も立ち上がる。

「そう、良かった。急にぼうやが前に倒れこんできたからびっくりしたよ。」

自分よりも少し高い視線を受けて、ナルトはまた顔を紅くした。


「翡翠姐さん、大丈夫ですか?」

隣に歩み寄ってくる別の女の呼びかける声にナルトは、その「翡翠」と呼ばれた女の横顔を見た。
(この女が、…ヒスイ?)
自分が勝手に空想していた以上に美しい女が目の前にいる。
(き、キレイだってば)
やっとのことで、そんな言葉が頭の中に浮かんだ。
翡翠は、心配そうな女に微笑む。

「私は大丈夫だよ。」
「そうですか?でも気をつけておくんなさいましよ、大事な身体なのですから。」
「フフフ。大げさだよ、ミヤコ。それよりも」

翡翠の蒼い双眸がナルトに向けられる。

「このぼうやの方が災難な目にあったようだよ。」

その言葉にミヤコと呼ばれたその女が怪訝そうにナルトを見た。

「あっ、いえ!おおお俺ってば、かっか、勝手に倒れただけだしっ」

2人の女に視線を向けられたナルトが、焦った様に片手を振る。
こんな時どうすればいいのかわからず、ナルトは居心地悪そうに俯いた。

そうでなくともナルトは翡翠とミヤコの他に、その周辺にいる野次馬の注目の的なのだ。
いくらナルトが小さい頃から人々の注目を受けてきたからといって、それに慣れるわけではない。

どうしよう、とナルトが考えあぐねていると。

「ぼうや、私の後についておいで。」
「え…っ?」

翡翠が突然、ナルトの片腕を取り、そう囁いた。

「翡翠姐さん?!」

驚くナルトとミヤコをよそに翡翠は笑みを浮かべたまま飄々と前を歩き出した。
ナルトもその華奢な腕に引かれるまま歩き出す。

広い花街の通りを左右に囲む人・人・人。
歓声とその視線がさっきよりも自分達に集中する。

「あっ、あっ、あのっ」
「お、俺、もうこの辺で…」

その視線に居たたまれなくなったナルトが隣を歩く翡翠に焦った様に声をかける。

「いいから、私の後に黙ってついておいで。」

視線を合わせて人差し指を唇にあてると、翡翠が悪戯っぽく笑った。

「えっ…で、でもっ」
「いいから。」

尚も言い募ろうとするナルトを翡翠が柔らかに制した。

「姐さんっ」

その後を慌ててついて来たミヤコが翡翠の隣に並んだ。
キッと睨み。

「また良からぬことを考えて!」
「おや、人聞きの悪い。」
「だって!約束の時間もうすぐですよ。」
「まぁまぁ。お小言は後でいただくよ。それに『あの人』は時間にルーズだから、怒りはしないよ。」
「姐さん…」





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