囚ーtorikoー | ナノ






侵食していく狂気。


カカシの家から朝靄(あさもや)に紛れる様にナルトが、外へと出て行く。

「…っ!」

一歩、踏み出した途端に鈍い痛みが身体に走っていく。
ナルトは眉を顰め、自分の両腕で両肩を抱きしめながら深く深呼吸を繰り返す。

「…ハッ…っ」

清々しい空気が熱に膿んだ身体を冷やしていくが、深呼吸する度ところどころ関節が悲鳴をあげて喘ぐ。

「…情けないってばよ。」

うっすらと自嘲した。
くらくらとする意識。
自由の利かない身体。まるで、自分の様で自分ではない感覚。

……まだ。
カカシの吐息や匂い、そしてあの熱い手が身体に残っている様でナルトは吐き気がした。

本来なら受け入れないはずのあの"行為"を強制的に毎夜、カカシにさせられていた。
例えその身体に封印された九尾の力を持ってしても、その痛みはそう簡単に癒されるものではない。

「いかなくちゃ、任務、に…」

身体は鉛の様に重く、そのくせ中身はその痛みに悲鳴をあげても任務へ赴こうとしていた。
そうすればナルトはその間だけ、カカシを忘れていられる。
ナルトに向けられるあの冷たい瞳も。あの"行為"さえも。
ナルトは苦痛に喘ぎながらも懇親の力で歩き続けた。


「ナルト?」


どれだけ歩いて来たのか。気がつくと靄が晴れて辺りは太陽の光でいっぱいになっていた。
ナルトは、かけられたその声にゆっくりと視線を向ける。
けれど逆光で眩しくてシルエットしか見えない。

「…誰?」

その声は聞き覚えがある。けれど咄嗟に名前が出てこない。
近づいてくる気配にぼんやりとナルトは目を凝らす。
シルエットが徐々にナルトの視界の中でクリアになった。

「お前、いったいどうしたんだ?」
「サ、スケ?」

馴染みのあるチャクラにナルトは吐息を吐く。
様子を伺うように肩を支える力強い手。そして自分を見つめる黒水晶の瞳。
うちはサスケだった。
アカデミー、そして七班と一緒だったナルトのライバルで今はコンビを組んでいた。

「どうしたんだ?」
「……へへ、なんでもないってば、よ」
「何いってんだ!顔が真っ青じゃねーか!何処か悪いのか?」
「なんでもない、ってば。」

気遣うサスケにナルトは笑って首を振った。
今の自分の状態をいえば、この優しい友人を心配させてしまうから。

「へーきだってば。」
「バカっ!!平気じゃないくせに!」
「……サ、スケっ?!」

何を思ったのかサスケはナルトの腕を強引に引っ張って、歩きだした。
腕を引っ張られるまま、苦痛を押し隠しつつナルトはサスケの後に続く。
そして辿りついた先は懐かしいアカデミーの校舎だった。
サスケは迷わずその門をくぐる。ナルトも同じ様にその門をくぐった。
朝の校舎には誰もまだ来ていないようだった。まだ、時間もそんなに経っていないのだろう人の気配もない。

「サスケ、俺、任務が」

その背中に焦ったナルトが話しかける。もしこんな姿をイルカに見られたらと思うと、気が気でない。

「今日はやめておけ。」

その言葉に振り向かないサスケがそういった。

「そんな真っ青な顔して行ってみろ。足手まといになるだけだ。」
「でも」
「自己管理も出来ないヤツは黙ってろ」

言い募ろうとするナルトにサスケは静かに一喝した。その言葉にナルトは二の句を続けられない。
2人、言葉もないまま校庭を横切って校舎へと入っていく。ナルトはその間、イルカに会わないだろうかと危惧していたがやはりここにも人の気配はなかった。
ひんやりとした廊下を少し歩き、医務室の前に辿りつく。そして、サスケがその医務室の扉に手をかけて開けた。

「ナルト」

サスケがようやくナルトを振り返る。

「ここで少し身体を休めてろ。俺はちょっと話つけてくるから。」
「……サスケ、でも俺」
「お前は無理しすぎだ。」

身体の不調を知っていたかの様なその口調にナルトは目を見開いた。
サスケはナルトの肩を軽く叩く。

「少しは眠れ。」

そしてベットに無理やりナルトを眠らせると、後ろ手で医務室の扉を閉めサスケは廊下を歩き出した。
(…っとに、心配かけやがって)
中忍になってコンビになり、自然と相手の調子さえよく分かる様になってきたサスケである。
サスケが見る限りこの頃、ナルトは身体の調子が悪そうだった。それでも普段の様に任務をこなしているからあえて声をかけなかったのだ。

ナルト自身もそれを自分に知られるのを嫌がっているのを知っていたから。だが。
それが日毎に悪化して、今日はひどく調子悪そうに見えたから強引にココに連れて来た。
あんなに顔を真っ青にして調子を悪くするほど、何をしているのかわからない。

が、キツイ修行であんなになるわけがないとサスケは知ってる。
一晩、寝れば疲労は癒され身体は少なからず回復する。
しかしサスケが見た限りナルトは今がきっと限界なのだろうと予測はついた。






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