囚ーtorikoー | ナノ
人通りのない薄暗い路地裏にナルトはカカシと一緒にいた。
「何を、」
ナルトは無言のまま隣にいる飄々(ひょうひょう)と話しかける男の顔を睨む。
唯一、外界に晒している右目がナルトの姿を映しているのが見える。
「イルカ先生と話してたのかな?」
ナルトはカカシから視線を逸らしそれには答えない。
「教えてくれてもいいんじゃない?」
笑ってカカシはナルトの顔を覗き込んで問うた。
「……一体、任務ってなんだってば?」
そのカカシの言葉を遮る様に静かに感情を押し殺した声音でナルトがいう。
「任務…ねェ」
クックックッ。可笑しそうにカカシが笑った。
「任務なんてないヨ」
「ないって……、」
その言葉にナルトが絶句した。
カカシは笑って。
「アイツと一緒にいるのが、気に食わなかったから嘘ついただけ。」
「……っ!」
そういってカカシはそれに抵抗する間も与えずナルトの腕を自分に向かって引き寄せた。
2人の至近距離がぐっと近くなる。カカシはナルトの蒼い双眸を覗きこむ。
「なァ、ナルト?覚えてる?」
「……」
「あの日のこと。」
覗き込むナルトの蒼い双眸が一瞬、揺らぐ。
「俺はいったよね。お前の、」
『お前の、大切なものを、壊せるよ。』
脳裏にカカシの、あの時の忌まわしい言葉が蘇ってくる。
ナルトは頬を紅くして唇を噛むと、思いきりカカシの手を払った。
「っ、…触んなっ……!!なんで…っなんであんな、ことっ」
感情が昂(たか)ぶりナルトは叫んだ。
「あんなこというんだってばっ!!」
……わからない。そう、今でも。
カカシが何故あんなことをいうのか。ナルトは戸惑い、そして、悲しんだ。
カカシはイルカと同じ自分の師であり尊敬していた教師でもあったのに。
もう、あの日から『カカシ』は大切な人ではなくなった。
「カカシ先生、何がしたいんだってば?!俺に何をしろっていうんだってばっ?!……わかんない、ってば…、」
そう、叫んでから荒ぶるカカシへの感情を押し殺すためにナルトは口唇を強く噛む。
――泣いてはいけない。
この人の前で、泣いてはいけない。そう思っていてもこの悲しみは止められない。
「っ!」
ナルトは目を大きく見開いた。
カカシの口唇が触れた。
ナルトは思わずカカシを突っぱねて離れようとした。
「…っ、ふぅ…っ」
カカシに強引に顔を上げられ両頬を指で窄められ開けられて、舌の侵入を許してしまった。
執拗な、カカシが与えるその激しい口付けに初めてのナルトは翻弄される。
離れては、また口付けて。嫌がるナルトの抵抗をカカシが封じる。
「…っぁ、」
卑猥な音が自分の耳に聞こえて、ナルトは羞恥に頬を染める。
逃げようとすればするほどカカシは追いかけてくる。
舌を絡め、ナルト自身を強く求めるように。
「…っ、」
息が、苦しい。
ナルトはぼんやりと思う。意識がそれにもっていかれる感覚が、して。
身体の芯から、何かが、呼び起こされそうで……怖い。
"……怖い、先生。
……助けて……”
カカシの手と重なる手が縋りつく様に無意識に握られる。
脳裏に浮かぶイルカにナルトは手を伸ばした。
どれくらい時間が経ったのだろう?
気がつくとナルトはカカシの口唇が離れていくのをぼんやりと見ていた。
視界にはあの時と同じ、冷たい視線。口唇が何事かをつぶやいている。
「……」
「ぇ…?」
その言葉を聞き返そうとして、ナルトは自分の忍服がカカシの手に握られている九無で切り裂かれているのに、ハッと我に返った。
「先生っ!!」
反転したナルトの視界の中で、スローモーションの様にカカシが覆い被さった。
「やっ、……だァっ!!」
視界の隅に銀色の髪が見え隠れしている。
ナルトの身体に、ぽつりぽつりとカカシによって付けられた埋火(うずめび)が灯(とも)る。
……これから、もう後戻りの出来ない場所までナルトはカカシの手によって連れて行かれようとしていた。
それは狂乱の宴の、ほんの始まりだった。
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