囚ーtorikoー | ナノ
「ナルト」
そう声をかけられてナルトがふと顔を上げる。
「先生!」
そこには久しぶりに見るイルカが片手を挙げて立っていた。
「元気か、ナルト。」
「うんってばよっ!イルカ先生も元気そうだってばよっ!」
太陽の様な明るい笑顔でナルトがそう叫んだ。
ナルトはアカデミーにいた時と変わらずにイルカに駆け寄って抱きついた。
イルカがナルトを抱きとめて、ぽんぼんと感慨深くその少しだけ逞しくなった背中を叩く。
「相変わらずだなァ、お前は」
「先生ってば、俺はもう12歳のガキじゃねーんだぜっ!中忍だぜっ!?先生と同じっ」
そんなイルカを見てナルトが不満げに眉を寄せる。
「いやいや、いくつになってもお前は俺の生徒だから。」
「えーっ、それってばヘンだってばよぅっ!」
口をすぼめてナルトがすねた。
そんな仕草を見るとイルカはまだまだ子供だな、と苦笑した。
(ホントに月日が経つのは早いものだな)
ナルトを見て改めてそう思う。
12歳の頃のナルトは同期のサスケや、サクラやその他の班の子供達と違い、ずいぶん身体が小さかったのに今では立派に少年から青年へと、成長している様でその容姿も徐々に変わってきている。
ふわふわだった金色の髪も少しだけ伸び、その表情もりりしく華奢だった四肢も少しずつ逞(たくま)しくなっている様だ。
イルカはナルトが中忍になって以来ナルトと会うことはなかった。
2人とも忙しく会うタイミングもなかなか、ない。
でも、どんなに離れていてもイルカにとってナルトは愛すべき教え子であり生徒であったから。
こうして中忍になってから久しぶりに出会うことができた。イルカにとっては喜ばしいことだ。
「つらいことはないか?」
他愛ない会話をしながら、さりげなくイルカがそう問いかける。
ナルトが怪訝そうな表情をして、イルカを見返した。
「つらいこと?」
「いや、お前の活躍は知っているから何かつらいことはないか…と思って、な」
イルカとて風の噂でナルトが中忍として活躍しているというのは聞いている。
しかし、未だにナルトに対して偏見や差別を抱く者も中もいる。
中忍になって日も浅いナルトが、その中で辛いことがないとはいえない。
そんなイルカにナルトは頭を軽く振って笑う。
「そりゃ、いっぱいあるけど。でもそれをつらいって思ったことはないってばよ。」
「…そうか。」
「それにさ、イルカ先生が辿ってきた道だもん。全然、つらくない。どんな困難でもどんと来いってばよ!俺ってば早く火影になりたいからさ。」
ニシシと笑って、ナルトが空を見上げた。
イルカはそんなナルトを眩しそうに見やる。
「…なれるさ」
イルカは微笑むと、そっとナルトに手を伸ばして金色の頭を撫でる。
「お前は、なれるよ。」
いつか、きっと。火の意志を継いだナルトならば。
その優しい仕草にナルトは笑ってありがとう、とつぶやいた。
「−−…ナルト」
ナルトが肩を震わせたのはその時、だった。
(ナルト?)
イルカはナルトを怪訝そうに見下ろした。ほんの少しだけど、その表情に翳りが見え隠れしている。
それはイルカが初めて見るナルトの知らない表情だった。
(いったい、どうしたというんだ?)
視線を逸らしナルトを呼んだその声にイルカは振り返る。
「――カカシ上忍。」
眠たげな目とあった。自分達から、そう遠くない距離にいつの間にか、カカシが立っている。
上忍で「暗部」そしてナルトの監視役である「はたけカカシ」を知らない者は、この木の葉の里にはいない。
今の今までカカシの気配を感じなかったのでイルカも面食らう。
「お話中すいません。」
カカシがイルカにおっとりとそういった。視線をナルトに向けて。
「ナルトに任務を言付かってきたんですが。」
「あぁ、そうですか。」
ナルトを、と見るとナルトは俯いたままその話を聞いている。
「ナルト。ちょっと来い。」
カカシの呼びかけにナルトが一瞬、躊躇った。
そして思いきった様にカカシのそばに足を一歩、踏み出す。それを見た途端、なぜかイルカはその腕を掴んでいた。
「……イルカ、せんせ?」
振り返るナルトの視線にイルカが困惑した様に。
「あ、引き止めて悪かった、な。…なんでもないんだ…」
その腕を放す。ナルトは瞬きしてイルカを見つめている。
「お〜い、ナルト。」
その向こうでカカシがナルトを呼ぶ声が聞こえる。
「…じゃあ先生、会えて嬉しかったってばよ。」
ナルトはふわりと笑って、踵を返すとカカシの元へ走っていった。2人で消える様にその場を立ち去る。
後に残ったイルカは、その場で立ちすくんだ。
「……な、んで」
イルカは自分の手を見つめる。
何故あの時、ナルトの腕を掴んだのか。
自分でもわからないけれど。ただ…なんとなく。あのまま、ナルトをカカシの元へと行かせて良かったのかと漠然と思ったのだ。
(嫌な、予感がする。)
胸に去来するものにイルカは不安げに眉をしかめた。
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