365日 | ナノ


 見つけた365日

なんで今私はこんなところにいるんだろう。手には赤と白のボールが2つ、隣には興奮した面持ちのトウコ。私は今、小さく痛む頭を抱えて電車に揺られていた。


事の始まりはほんの1時間かそこら前のことだった。店に遊びに来たトウコに昔話をして、つい口を滑らせてしまったことから始まる。初恋の人が近くにいる、と恋バナが好きなトウコに言ったのが間違いだったのだ。トウコは静止の言葉も聞かず、私を半ば引きづるようにしてバトルサブウェイに来ると、唖然とする私の横でマルチトレインへの乗車手続きをしてしまった。幸か不幸か私はトレーナー経験があるため、常に2、3個はボールを持っている。乗車条件を満たしていたのだ。


「シャンデラ、オーバーヒート」

シャンデラから放たれた灼熱の炎が、相手のワルビアルを包む。ついでに私たちトレーナーの方にまでひのこが飛ぶ。避ける前にトウコのダイケンキがトウコと私を守るように水のヴェールを張ってくれる。ありがとう、と言うとダイケンキとトウコが同時にニッと笑った。流石の連携プレーに頭が下がる。
そうこうしている内に相手のワルビアルはひん死、相手トレーナーのボールへ戻っていった。

「人間元気があれば何かとできますよー!」
「あ、ありがとうございます…」

別れ際に言われたセリフが現状に妙に染みて、それがまた現実を重くさせた。電車から降りても手を振ってくれたナースさんの笑顔がつらい。

「やっぱりリオさん強い!トレーナーやめたの勿体ないくらい!」

ねぇシャンデラ!といつの間にやら自分の手持ちと仲良くなっているトウコ。シャンデラも嬉しそうなのが何とも言えない。

「シャンデラだって久しぶりのバトルが嬉しくて、さっきあんなに激しいオーバーヒート出したんだよねー」

肯定するように揺れるシャンデラに、ちょっぴり心が痛む。もう十何年の付き合いになるシャンデラは、私の手持ちの中でも1番の好戦的な性格だった。ここ数か月まともにバトルをしていなかったから、色々溜まっていたのだろう。力が有り余っているのか、そういえばここに来るまでのバトルもほとんどシャンデラ一体しか出していない。

「…ごめんねシャンデラ」

撫でると擽ったそうに身を捩じらせる。常に一緒にいるが、こんな生き生きしたシャンデラは久しぶりだった。半ば無理やり連れて来られたバトルサブウェイだったが、来てよかったかも。そう思ったのも束の間、トウコはニコニコしながらとんでもないことをのたまった。

「さぁリオさん!次がいよいよだよ!」
「………え?」
「え、じゃない!次がサブウェイマスターの二人が相手なんだから気合入れなきゃ!」
「え、え………え!!?」

なんだそれ聞いてない!焦る私をよそに、トウコは呆れたように腰に手を当てため息をついた。

「だって、今のが20連戦目だったでしょ。だからサブウェイマスターへの挑戦権は手に入ったんだよ」
「え、だって何のアナウンスもないし!そんないきなり言われても…!」

バトルサブウェイなんて乗ったことのない私に、バトルサブウェイのルールを当然のように話されても困る。いつかは来ると思ったが、まさか次だなんて。

「さ、次の車両へレッツゴー!!」
「ちょ、ちょっと待って心の準備が!!」
「今更何言ってんの!行くよリオさん!!」
「い、いやーー!!」

嫌がる私を余所に、またも引きづるようにして次の車両への扉に手をかけるトウコ。心の準備もできていない私は、せめてもの抵抗としてトウコの被る帽子を取ると、素早く自分の頭に深くかぶせた。
あっと声を上げるトウコにかぶせるように、前方から言葉が聞こえた。

「本日はバトルサブウェイにご乗車、まことにありがとうございます」

形式的な挨拶が車内に響き渡る。さっきまで煩いくらいだった電車がレールの上を走る音は、不思議と気にならないくらい、その声は綺麗に響いていた。
もう忘れてしまったけれど、未だかすかに耳に残る昔の声に鼓動が早くなる。悪いことはしていないはずなのに、胸が痛い。恥ずかしい。顔をみたいのに顔を上げられず、じっと俯くことしかできない自分が情けない。

「そちらのお連れ様、大丈夫ですか?」
「具合、悪い?」

俯いて何も言わない私を心配したのか、二人が声をかけてくれた。あぁ懐かしい声だ。思わず涙がこぼれそうになる。誤魔化すように大丈夫です、と言うと同時にボールを構える。もう早く始めて、終わらせてしまおう。やっぱりまだ好きなのかもと思う自分を忘れるためにも、いいチャンスだ。
帽子を深くかぶり直し、前を見た瞬間、目が合ったような気がした。



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(120629)

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