00 プロローグ




私が生まれ育った環境は、割と特殊だったように思う。



物心がついた時には何故か周囲から一線を引かれ冷たい視線を浴び、食事には毒を盛られ、友人を作ることもできず、訓練と称された拷問を受ける日々だった。

気が付けば吐血する程度に病弱な自分だが、そんな過酷な毎日に子供ながらよく耐えられたものだと苦笑する。



・・・幼い頃は、もっとマシな環境だったはずだ。

今はもう、うっすらとした記憶でしかないが、幼少期は兄や弟がいて、今よりも大分自由で、笑って暮らしていた覚えがある。
おそらく、あの頃が一番幸せだったのではないか。
その楽園から連れ出され、地獄のような島――――大厄島に放り込まれたのは、自分がまだ六歳の頃だったか。

とりあえず思いつく限りの拷問は一通り受け、三途の川を幾度となく渡りかけるという臨死体験を経て今に至る。何のためにそんな地獄を味あわなければならないのかというと、それは家業である“暗殺”という仕事の為だった。

闇口衆―――
大厄島で育てられた者は、自身の生涯を主である人間に捧げ、主の為に尽くすことが何よりの幸福らしい。
暗殺集団に幸福などあるのかと甚だ疑問ではあるが、彼らは昔から変わらず“そう”なのだという。

“主の為に殺す”
聞けば、他にも物騒な集団がわんさかといるらしい。話は聞いたが、忘れてしまった。どうせ必要な時に思い出すだろう。



“暴力の世界”と呼ばれる、今の自分が身を置いている世界がいかに“普通”ではないのか―――それが分かるのは、きっと外の世界に飛び出した瞬間だろう。







私の名前は闇口 依。

主は、まだいない。





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