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「おう、おかえり……って、随分男前になったな」

今日は外に出る気が起きなくて、アケチの部屋に留まっていた。窓を自力で開ければ外に出るのも容易いが、防犯の観点からビルに面してるとはいえ窓を開けっ放しにしておく訳にもいかずあまり言い出さないことなのだけれども。
そんなことをしたのが関係あるのかないのか、珍しくアケチが怪我を負って帰ってきた。平和な日常で、しかも顔に、である。

「お前たまに親父くさいこと言うよな。あぁ、猫年齢だともうとっくに親父とか?」
「はいはいこっち座れ。絆創膏ぐらいなら貼ってやるぜ」
「自分でやる」

とても分かりやすく不貞腐れるアケチがベッドにどかりと腰を下ろす。あんまりな勢いにベッド上の様々な生活用品とワガハイが飛び跳ねる羽目になったが気にする様子もなく、足元に押し込んでいた救急箱をこれまた乱雑に引っ張り出しぶつぶつと不満を重ねた。機嫌が悪くとも良くともよく回る口だ。今日のクライアントの容姿から口調から延々と詳細が語られる。怪我は顔だけらしく、その詳細も独り言じみたそれで把握した。隣から伸び上がって看れば深くない鋭利な傷だ。くっつくのに時間はかからないだろう。
一緒に仕事に付いていけば未然に防げたろうかなんてちらりと考えてから、終わってしまったことだと苦笑した。それにアケチは良しとしないだろう、猫の手まで借りるなんて。

「やさぐれてるアケチのために、五分くらいなら肉球触らせてやるぞ」

伸び上がるのをやめてすぐ隣からただ見上げる。傷口を洗いテープでとめたアケチは殺人もかくやという顔でこちらを見下ろして、切り替えるようにひとつ息を吐いてベッドとワガハイの上に倒れ込んだ。すんでのところで避け損なって、その薬臭い手に捕まる。

「足りるか、一時間だ」
「ワガハイの皮がめくれるわ!」

本気に聞こえる地を這う声に、爪を立てて抗議する頃にはアケチの口数は落ち着いた。




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