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「ナタリアが国王の娘じゃない?」



聞いたことをそのまま言ったユーリの言葉に、こくんと幼い仕草で頷いたルークを見て、思わず案の定の重たい政治的兼ね合いな話キタ━━━━(゜∀゜)━━━━ !!!!とグラニデのルークは思った。
現実逃避も入っていた。

そろそろ正座してるのも辛いんだけどなぁー、なんて思いつつ明後日の方向を向いているのは現実を直視したくないからで、ソファに膝を抱えて座り込んでいるルークと顔を合わせ辛いと言う面もある。自業自得だが。

目を腫らして話すルークの話をまとめると、ライマと言う国には預言と言うものが浸透していて、ナタリアは本当の『ナタリア王女』が死産だった為にすり替えられた庶民の子どもなのだそうだ。
預言と言うものに頼っている時点で大丈夫かそんな国…と結構がっつりと引いてしまったのだが、なんでも100%預言に頼り切っていると言うわけではなくて、反対意見も結構あったらしい。何も知らないナタリアにその事実を伝えるには酷な話だと言うことで、本人に気付かれることのないまま穏便に公爵家から男児を差し出して結ばせればそれで済む話だったらしいが(どこがだよ、と許されるならツッコミたいが)、しかし女児であるルークが姉として先に生まれてしまったから話がまとまらなくなってしまったそうだ。


王族の色を持っていないナタリアには王位継承権がない。
その理由は女だから、と言う理由ではなく、王の娘ではないからだ、と言うことなので、ルークの存在は非常に不味いものだとかで。
正直この話を聞いたとき、グラニデのルークの感想としてはアホな国もあるもんだなーとそんなところだったのだが、話が進むにつれどんどん顔が険しくなっていくユーリが恐ろしくて口を挟むことが出来なかった。
ルークは自分の膝を見ているんじゃなくてユーリの表情に気付いた方がいいと思う。
あっちのユーリもそうだったけれど、決して『ユーリ・ローウェル』と言う人間は察しの悪い男ではないのだ。
預言ですり替えられていたとしても、自分とは血の繋がりが全くないのだとしても、ナタリアは国王が溺愛する娘なのだ。
邪魔者はどう考えても公爵家のルークだろう。
朱い髪に翡翠の瞳をした、王族の色を持った姫君だ。
聞いてる分にはライマも一枚岩じゃないみたいだし、ルークの存在はナタリアの立場を追いつめる忌々しい存在でしかない。実の弟すらも知らないほど、性別を隠させられているのだ。
一時的に王として扱って、民のことを考えていない横暴な執政をさせて、そんな愚かしい王を優秀な弟が民の為に立ち上がって打ち倒し、王となったらそりゃあ素晴らしく尊敬される王の出来上がりだと思う。
民の心だって掴んで離さないだろう。
こっちのアッシュがどんな人間か全部把握してはいないけれど、『アッシュ』と言う人間はそれが出来ると思った。


ルークもそれをわかっている。
存在を蔑ろにされても、喉仏に見せかけた変声器の装着を余儀なくされて喉元を服で隠してまでして性別を隠そうと必死になっているのも、そんなバカみたいな話を受け入れてしまっているのも、アッシュとナタリアの幸せを願っているからだ。
…そこに気付けないほどユーリが鈍かったら良かったのにな、と思わず思ってしまうほどの表情にいい加減こいつは気付いた方がいいと思う。
とうとう怒りも突き抜けて無表情になってるから。
見てるこっちが至る所から冷や汗が出てるぐらい、今のユーリだったらライマの上層部全員殺しかねないぐらい、相当にやばいと思えるのは多分、気のせいなんかじゃないぞ、異世界の俺。



「…なんで、お前はそれを良しとしてるんだ。おかしな話だって、本当は気付いてるんだろ?」


問いかけるその声色に、かなり怒ってますよ、とそんな気持ちが込められているのが俺でもわかると言うのに、ルミナシアのルークは首を横に振ってしまったのだから、「ああ、これはやらかした感じだぞ、ルーク」と正座したまま呑気に思ってしまった。
こいつ自分で潰したよ。
逃げ道いま、自分の動作1つで塞いじまった。


「おかしな話じゃねーよ。おかしいって言うなら、俺が生まれたのがおかしいんだ。望まれて生まれたわけじゃないからな。…アッシュもナタリアも、本当に良いやつなんだ。二人が幸せになるんだったら、俺ぐらい死んだって、別におかしくともなんともねぇっつーの」


明るく言おうとしたのはこの場合かなり間違った選択だと思ったのだが、案の定一番やってはいけない回答だったようで、とりあえず誰かの理性がぷっつり切れた瞬間を、ルミナシアに来て見る羽目になるとは思っていなかった。
正座で放置プレイかこのやろー、なんて軽口叩けたらまだマシだったのだろうけど、いきなりルークをソファに押し倒したユーリは止める間もなくて。


「大罪人……?」


呆気に取られながらもそう言ったこちらのルークは、もう少し危機感と言うものを持った方がいいだろうなぁ、と思いながらとりあえずさっと扉の鍵を閉めてさっと元の位置に正座しに戻ってみた。
途中退場した方が良かったんだろうなあ、と思ったのは「俺ここに居るのにお構いなしだな、ユーリ」と呑気にそんなことを考えてからで、思考回路が碌に働いていないことに気付いたのもその時だった。
大罪人呼ばわりは改めた方がいいと思うのになあ、とか思っている場合じゃなかった。
呑気過ぎでした。


「どうせ死ぬ命だって言うんだろ?さっき止めてやった俺は、余計なお世話だったって話なわけだ」
「−−−っ!!」
「泣いていたのも演技か」
「違う!!演技なんかじゃな……っ!」
「弟と幼馴染の為に死ぬんだろ。だったら馬鹿正直に貞操守る必要もねぇだろ。なあ、ルーク」


……聞いてるだけのこっちも思わずぞっとするような冷たい声に、ルミナシアのルークが怯えてカタカタと体を震わせたが、まあ上を取られて押し倒されている状態で今さら遅いだろ、と呑気に思ってしまった俺は悪くないと思った。
つーか俺居るんですけどー、とユーリに訴えたいのだが、聞いちゃもらえないのはなんとなく察しているので止めようかと言うそんな無謀な考えは抱きはしない。
だってユーリがこっちのルークが好きだと言うことを俺は気付いてたんだ。
そしてルークもユーリを憎からず思っていたことも。
合意じゃないのはさすがに不味いと思うけれど、惚れた相手が理不尽な死を迎えることを許してしまっている事実を聞いて、ブチ切れた男をここで止めようものなら殺されるんじゃないかな、と思ったのは気のせいではないと思う。


「や…っ!やめっ、やめろ!放せ大罪人!!」
「黙れ。望まれて生まれた命じゃないんだろ」
「……っ!それとこれとは、話が違うだろ?!」
「違わねぇーよ。お前の命はただあいつらの為に死ぬ為にあるんだろ。体は要らないから性別だって隠されてんだ。不用品なんだよ。必要とされてないんだ、本当のお前は。だったら有効活用してやるよ。ちょうど良かったわ。最近溜まってたからな」


ユーリの意図するところがさすがに分かったのか、今になってルークは必死に暴れて抵抗しようとしたが、無意味なのは分かりきった話で、ユーリはびくともしなかった。
すげぇ無茶苦茶な言い分だな、と思わず感心してしまうぐらいの勝手な内容だったが、ユーリがかなり怒っているのは明らかだったし、なぜ怒っているのか分かっていないこっちのルークの方が、酷い話なんじゃないかと思う。
頭の上で腕を一纏めにして抑え込んだユーリは、容赦なく先程それなりに元に戻してやったルークのインナーをたくし上げて、露わになった乳房に顔を寄せたのだからちょっと苦く笑うしかなかった。
だから俺居るんだけどユーリ…なんて言ったら多分、牙狼撃喰らう。
世界観お構いなしに天狼滅牙まで喰らったらどうしようか。


「やっ、やだ、やだ、やだ…っ!やめて!やめろ大罪人!放せ!!」
「口が悪いぜ?ルークお嬢様。男言葉もやめちまえよ。お前は女なんだから」
「ふざけたこと言うんじゃねぇっ!!放しやがれ!!」
「誰がお前の言うことを聞くかってんだよ。もう黙れ」
「ひぃっ!!」


ぱっぱと今度はズボンを下着ごと脱がして何の躊躇いもなく割れ目に指を這わせたユーリに、すっかり怯えきったルミナシアのルークの声が響いたが、グラニデのルークの感想はだから俺ここに居るのにほんとお構いなしだな、とそんな呑気なものだったりした。
今さら思ったことはもしかしなくとも向こうの親友に感化されて俺も変態になってんのかなぁ、とそんなことだったりもしたのだが、結構爛れた人間関係の中心に居るからそれも仕方のないことかもしれない、と開き直ることにするしかない。
涙を堪えつつも本気かどうか知らないが嫌がっているルークと、ぷっつり怒りのあまりブチ切れて八つ当たる矛先を間違えているユーリの姿はなんだかその手のDVDでも見ているような気分で、だからなんで俺ここに…ともう何度目かの疑問はツッコまないことにした。
ガチガチに怯えたルークはそりゃ濡れないだろうし絶対キツいだろうなあ、と思う。
話を聞いた時のあのユーリの傷ついた顔に気付かなかったルークもなんだかなあ、と思ったのでとりあえず正座を続行することに決めた。
場合に寄らずとも犯罪だぞユーリ…とは思うものの、いま止めたら絶対に殺されると思う。


ごめん、ルミナシアのルーク。
異世界で死ぬのは、さすがにちょっとやだ。





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