A





3人揃って怒られる意味も必要性も内1名は全く関係がなかったのだが、3人仲良く部屋を追い出された時には苦笑いしか出来なくなっていた。お互いに顔を見合わせる。お前らのせいだと睨み付けるアッシュに、苦笑いのグラニデのルーク。そして気にもしていないのかいつもと変わらず通常運転で飄々としているユーリが肩を竦めていれば、再び中で癇癪を起しているのかルミナシアのルークが扉に向かってクッションを投げ付けたようで、鈍い音と「マジありえねーっ!!」と聞こえる声に、今はそっとしておくかと部屋を離れるしか、なくなる。
どういう仕組かグラニデのジェイドからの手紙を渡してくれたのはルミナシアのディセンダーからで、もう一度読んでおくかと目を通しながらグラニデのルークが食堂へと足を運ぼうとすれば、苦々しく顔をしかめたアッシュが口を開いた。こちらのルークの事情を知ることになってからと言うものの見事シスコンと化した協力者でもあるアッシュが一体何を言い出すのか。全く予測もつかないその先の言葉に思わずグラニデのルークは苦く笑ったままなのだけれど、とりあえず勝手に先に進んで行こうとしたユーリの腕を引っ掴むのは、やめないでおいた。


「最終的にグラニデに行くと言うのが目的なのは知っていたが……それ以外にお前らはあいつに何をやったんだ?あの様子じゃ何を言っても暫く出て来ないぞ」


呆れたように言ったアッシュに、しかしそのまま「ユーリがホモ疑惑掛けられたくないからってところ構わずやってたから、それがあと2ヶ月も延びて嫌になったんじゃない?」と言える筈もなければ言ったら最後絞牙鳴衝斬を食らうことになるのは目に見えていたので、曖昧に苦く笑うしかなかった。
飄々としたまま隣を歩くユーリにはちょっと肘で小突いてみたくもなるのだが、とりあえず今は手紙に集中するかと思い、アッシュの相手は全て丸投げすることにする。本当にユーリが相手にするか知らないが。



「何をやったって言われてもなぁ…この前はエミルに見られてルカは結局4回だったか?ゼロスには2回でおっさんとフレンにはまだ1回しか見られてねぇ筈だけど」


案の定まともな返答をする気がないユーリのとんでもない発言に、アッシュの眉間からむしろ逆にあえて皺が消えた。
ジェイドからの手紙を読み終えてティアからの報告書に目を通しつつ2人の会話を聞いていたのだが、これは間違っているだろう、ユーリ。ゼロスとエミルは3回だし、ルカが目撃したのは7回です。


「……ちなみにそれは何の目撃回数だと聞いていいのか?返答次第ではお前の髪を刈り上げて丸坊主にする必要があるが」
「なんだ?さらっさらヘアーのアッシュ様は、憧れの髪型は実は坊主でしたってか?へぇ、なかなかいい趣味をお持ちじゃねーか。短パンとランニングシャツと虫取り網でもプレゼントしてやろうか?それで膝小僧に絆創膏貼って立ってたら喜んでディセンダー様がテロップ出してくれるぞ。短パン小僧が現れたってな」


想像したらとんでもなく泣きそうになったアッシュの短パン小僧姿に麦わら帽子を追加して、これはあかんとグラニデのルークが今にも泣き出しそうにぐしゃぐしゃに顔を歪めて両手で顔を覆い隠して泣くフリをした瞬間、バンエルティア号の某所の廊下に、エクスプロードがぶっ放された。ゴウッ!と容赦なくユーリに向かって放たれた術はしかし対象には全く当たらず、次いで放たれたサンダーブレードは不味いことに壁にヒットした。クリティカルヒット!4340Damage!さっすがアッシュ!ホールにたまたまアンジュが居なくて良かったな!
…貫通したよどーすんだこれ。


「ふざけてんじゃねーぞこの見境なしがぁああああーーーッ!!!!」
「失礼な奴だな、義弟くんよぉ。俺はいつでも強気に本気だ。ふざけてるわけじゃねぇ」
「その発言自体が悪ふざけの塊なんだよ喧嘩なら買うぞ屑が!!誰がてめぇの義弟くんだ!!これ以上あいつが恥をかく前にてめぇはくたばりやがれーーーー!!!!」
「落ち着けよアッシュ。血圧上がって丸坊主になる前に、禿るぞ」
「独断と偏見でそれ以上貴様が妙なことを言う前に、俺が殺す」


言いながらがっつり剣を抜いて乱闘になっている目の前の現状にグラニデのルークは苦く笑いつつ、ティアの報告書から次いでアニスの報告書にも目を通していた。グランマニエの王宮にて最近どこからか入り込んだ黒い瞳が特徴的なブウサギと『ルーク』がデキていたらしく、『近々出産予定だそうで、発狂寸前のその飼い主に大佐が妊娠中のブウサギの為に飼い主を焼却処分して餌にしようと計画立てていて怖いです。助けてください。』と書いてあったので『人肉を与えたらせっかく可愛らしいブウサギの子どもが生まれるのに台無しになるので、ぶつ切りにして中庭のライガにあげるようジェイドに伝えるように』と返答することに決めた。別に人の名前をペットに付けるのはジェイドほど気にはしないから構わないが、メスのブウサギに『ルーク』と名付けたのはちょっと気に食わなかったりもする。あながちこちらのルークを知ってしまうと間違いではないのだからそれほど怒りも持続できないのだが、なんで黒が特徴的なオスと付き合ってるんだよ、と思ってしまえばどうにも複雑な気持ちになったりもして。


「将来のお義兄さまに対して死ねはないんじゃないか?その口の悪さはなかなか感心できねーぞ、義弟くんよ」
「てめぇにだけは言われるの我慢ならねーぞ万年発情期が!!お義兄さまだなんて気色悪いこと言うんじゃねぇ!!大体いろんな人間に見られ過ぎだろうが!!あいつの気持ちも考えろ!!てめぇだってそれでよくねぇだろうが!!気にしろ!!」
「俺だって気にはしてるし嫉妬だってしてるけどな、見せ付けたくなるぐらい綺麗な体してんだよ、あいつ。肌白いし綺麗だし。焦らしてやれば舌足らずになって必死に名前呼ぶのが可愛くてな。うっすら頬が赤くなったりするのがたまん「氷の刃よ!降り注げ!!アイシクルレインーーーッ!!!!」」


派手にぶっ放した氷の刃が詠唱通りホールの壁やら至る所に突き刺さっていくのを顔を引き攣らせながらも見守りつつ、響き渡る剣戟やらアッシュの罵声、気にもしていないからこその神経を逆撫でするようなユーリの言葉にちょっと本気でこれは後が怖いなと本来なら居る筈の聖女様を思い浮かべては、逃げ出したい心境ではあった。
段々とどころか凄まじい勢いでボロッボロになっていくバンエルティア号のホール内に、珍しく誰もいないことが良かったのか悪かったのか微妙なところではあるが、それにしたってこれは酷いだろう。
アンジュにはどうして止めてくれなかったのだと泣かれそうなぐらい受付が吹っ飛んで依頼の書かれた書類が宙を舞っていたが、まあ俺じゃ無理だと早々に諦めたのが、多分いけなかった。


「くたばれ!魔王絶炎煌!!」
「させっか!蒼破追蓮!」


どちらも室内で使用してはいけない行動ではあったのだが、怒りに我を忘れてしまったアッシュとそんなアッシュに悪乗りしたユーリが止まるはずもなく、繰り出された技は周りに被害を与えて四散していた。
…周りと言うよりも、ピンポイントでグラニデのルーク一択だったのだが、そこはまあ、恐ろし過ぎて明確にするのを避けただけだろう。あ、とユーリが気付いた時には、正直遅すぎたのだ。
手紙を持っていた筈の手が、宙を掴んで固まっている。
無残に散った紙の名残に、流石にアッシュも青褪めユーリも何も言えなかった。


どれだけ現実逃避をしようとしても、手紙を燃やしてしまった事実は変わらない。
しかも、器用に向こうのガイからの手紙だけでした。




「…まだ読んでなかったんだけどな、俺」



にこっと笑っているのに凄まじい勢いで吹き荒んだのは完全にブリザードだったりして、これには大人しくアッシュもユーリもライフボトルを誰かが与えてくれると祈って、閃光を前に目を瞑った。
なんの躊躇もなくレイディアント・ハウル。
普通に秘奥技だった事実にかなり怒っているのだとは容易に分かったが、謝るには戦闘不能状態で、そうして二ヶ月程こんなやり取りが続くのだから、質が悪かった。





prev next



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -