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そして案の定、アンジュの頼み事を済ませて戻ってきても、全く何にも変化はありませんでした。


「おーい、アッシュー。起きてるかー?」
「これで寝てたらそいつほかって俺はルークを風呂に連れてくけど。もう面倒臭いからさっさとパナシーアボトル使えって。置いてくぞ」


もう早くルークと2人きりになりたいんです、とばかりの勝手なユーリの主張に苦く笑いつつ、なんかこっちに来てから苦笑いが標準装備になってるな、俺。と思いながらアッシュにパナシーアボトルを使ってみたら、その直後にどこから取り出したのかアッシュがデッキブラシを構えて「屑がぁあああーーーっ!!」と叫びながら床を磨き始めていた。
が、5分もしない内に頭を抱えて蹲っていたりした。
多分自己嫌悪に陥ったのだと思う。
わあ、アッシュ混乱も限界まで達するとそんなことしちゃうんだ、と感心していたら今にも泣き出しそうな顔をしてユーリの膝の上に頭を乗せて気を失ったままでいるこっちのルークを何度も見て、俺と見比べて(これで俺まで女だと判断したらちょっと怒るぞ、アッシュ)、ますます眉間に皺を寄せて、そうして未だに何の処理もしていないからルークの太ももを伝うユーリの精液を見て言葉にならない叫びを上げている。
むしろ自分の姉が素っ裸であることにもう少し何かしらツッコミを入れた方がいいと思うのだけど、やっぱりそこまでは頭が働いていないらしくて、なんだかもう可哀想に思えてくるから、ちょっと不思議だと思った。そんなアッシュを面倒臭そうに見ているユーリは本当にこっちのルーク以外には容赦ないと思う。
とうとうアッシュと会話をするつもりも失せたらしく、ルークの髪を梳きながらこちらを見た。思わず正座体勢になった俺は別に悪くないと思った。


「で、なんでこいつをわざわざ連れて来たんだ?」


ああ、やっぱり全部バレてますか、と下手な言い訳も通じないレベルにまで達しているユーリに、当然苦笑いなんかは引っ込めれる筈がなかった。
あそこまでこっちのルークが泣きじゃくったのはアッシュにだけは見られたくなかったからで、ユーリとしても今はまだ危ない橋を渡りたくなかったのだろう。
アッシュにバレると言うことは必然的にライマの人間にもバレる、と言うことだ。
気が付いた時にはグラニデに駆け落ちしています、が理想なユーリにとっては厄介な面倒事を擦り付けやがって、と言うところだろうか。
まあ、もうアッシュも知っちゃったからどうにもならない話だけど。


「いやあ…だってアッシュがさ、あれだけ聞いてもルークのこと男だって思い込んだままだったし?ホモ疑惑かかったまんまはユーリにとって不満かなって思ってちょっと覗くつもりだったんだけど…まさかこっち向いてるとは思ってなくてさ」


さすがに何も取り繕うことはせずにそう言えば、ちょっとは思うところもあったのかユーリは呆れたように溜め息を吐いて改めてアッシュを見た。
斯く斯く云々で通じたら楽なのだけれどあいにくそんなわけにもいかなくて、ユーリが話す言葉を大人しく聞いているアッシュはなかなかに新鮮だった反面、いつ怒鳴るかわかったものではなかった。
アッシュにとってルークの置かれた状況や抱え込んだ事情はとてもじゃないが他人事などではなくて、話が進むにつれてどんどん血の気が引くのは俺にとってはあっちのアッシュの姿と重なってちょっと辛い。
ルークのことに関して、アッシュは本当に何も知らなった。
それは性別から始まって預言のことも、自分たちのことをどれだけ大切に想ってくれていたかと言うことも。
今までさんざんバカにして来たから、そんな自分にアッシュは自己嫌悪ばかりしているのだろうけど、だからそろそろ自分の姉が素っ裸と言うことにもうちょっと気を配ってやれよと思った。
精液垂れてるって。
呆然と裸を見てる場合じゃないと思う。



「…事情は、わかった。父上達がこいつに対してそんな仕打ちをしていたのは認めたくねぇが…俺は何にも知らなかった。間違いじゃないんだろう。だが、なんで貴様がこいつを犯していいことに繋がるんだ!最低な男だな!ユーリ・ローウェル!!」


今にも剣を抜かんばかりに睨み付けてアッシュはそう叫んだが、その武器はデッキブラシであることに早く気付いた方がいいと思った。
ジェイドの武器をよく持ってきたなあ、とも思うけどとりあえず俺は正座続行中なのでだんまりを貫いてみる。と言うか、アッシュの言葉にユーリが不敵に笑んで、こっちのルークをわざわざ抱き寄せた時点でその後の展開は簡単に読めた。


「そりゃあ俺はこいつの恋人だからな。抱いたって別におかしくもなんともないだろ?愛し合ってんだからさ」
「は?!」


頓狂な声を出してまでアッシュが目を剥いて固まった。自分のキャラを捨ててまで『ルーク』が好きなのかと思ったら俺まで嬉しくなったのだけど、もうちょっと余裕を持ってツッコミは入れた方がいいと思うぞ、こっちの弟よ。
だってユーリ超愉しそう。


「将来はグラニデに駆け落ち予定だ」
「はぁあああ?!!」


絶対わざとアッシュを怒らせる為だけに言葉を選んだユーリに、もうなんか正座しているのもばからしくなってきたのだけれど、うろたえるアッシュの目の前でルークにキスをしたからそこはやっぱりやっちゃうんだ、と思わず笑ってしまった。
バカみたいに口を開けてぽかんと開けて呆然とするアッシュを横目に、ユーリは構わずこっちのルークと触れ合うだけなんかじゃなくて舌を絡めたキスをしている。
ぴくっと指先が跳ねたこっちのルークはそろそろ目を覚ますかなー、と思っていたら顔を真っ赤にさせたアッシュがデッキブラシを床に叩きつけて怒鳴った。


「ふざけんじゃねぇこの屑がぁああああああ!!!!大体恋人同士にしても避妊ぐらいしろ!!子どもが出来たらどう責任取るつもりだバカ男!!」


キスしているユーリに向かって、混乱のあまりどうにもツッコミ所を微妙に外しながらも指差して叫ぶだけ叫んだアッシュに、「なら今からでもちょっとは確率下げるか?ユーリが中に出したの掻き出してやってさ」とあとちょっとで言いたかった言葉をどうにか抑え込んでひたすら耐えた。
ら、そのかわりにかなり足が痺れた。
キスだけでもびくっと体を震わせてるこっちのルークの中に指突っ込んで泣かせてやりたいし、どちらかと言えば縋りつかせてもやりたいのだけど、それを言ったらアッシュに嫌われるから絶対に言えないのがもどかしい。
どちらのアッシュに対してもそうだけど、どうしてもアッシュは大切な弟だからつい、アッシュの前では余計なことの部類に入るものは口が裂けても言えないと思うのだ。これがガイだったらノリノリで付き合ってくれるのに、本当に惜しいことをしたと思う。後ろの穴でいいから一回貸してくれないかなって今言ったらユーリに殴られるだけじゃなくてアッシュにまで引かれてしまう。
それだけはちょっと嫌だった。






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