B



「ま、今はともかく、展望室から頼まれてた酒、持って来るからな!」
「は?!お、おいちょっと待て!!あっちは今…っ!」
「大丈夫だってアッシュ。平気平気。さっと行ってさっと戻ってくるからさ。任せとけって!」


自信満々にわざとそう言ってやれば、面白いぐらいにアッシュがうろたえて止めようとしたのが新鮮で、思わず笑ってしまったけれど、指摘するような余裕は残っていないらしかった。
結局立ち尽くすしか出来ないアッシュを一旦放置して、階段をのぼって展望室の中へと足を進める。
あまり訪れる機会のなかったそこは当然今セックスをしている2人以外の気配はなくて、遠慮なく近付いたら2人分の荒い息遣いと、アッシュが聞いたら卒倒するんじゃないかと思うようなぐちゅぐちゅと掻き混ざるそんな粘着質な音が響いていた。
毛先になるに従って金色に変わる、ルークの朱色の髪が暗がりの中でも揺れているのが見える。
対面座位で2人はヤっていた。出入り口の人間が見えるよう、ユーリが様子を窺えるかわりに、ルークは背中を向けさせられていて。


「なんだ、てっきりあっちの方かと思ったらお前の方か」


ルークの腰を掴んだまま、にやりと笑って言ったユーリの言葉に肩を竦めながらも間近にまで近付けば、その時になってようやく気付いたらしいこっちのルークが大きく目を見開いて凍り付いた……つもりに、なっていた。
さすが姉弟。
反応のパターンが一緒とでも感心するべきだろうか。
一応ユーリも動きは止めたらしいけれど自然と腰が動いていて、目を見開く寸前までの蕩け切った表情はなかなか良かったのに、今じゃ羞恥で耳まで真っ赤だ。
多分、俺が来る前からそれなりに赤かった筈だと思うけど。


「や、やだ!見んなぁっ!どっか行けよ!こっち見んなぁあ…っ!!」


目蓋をぎゅっと閉じていやいやと首を振って叫ぶルークは思わず抱きしめたくなるぐらいちょっと本気で可愛いと思えて、これにはなんかもう苦く笑うしかなかった。
やっぱり異世界の自分だと分かっていても性別が違うと根本的に別人物にしか見えないし、こっちのユーリとあっちのユーリみたいな、そんな枠組みからは簡単に外れてしまえると思う。ぎゅうっとユーリにしがみ付くルークの白い上着は床に放り投げられていて、さんざんユーリが嬲ったのだろう、唾液でてらてらと濡れている乳首が普通に見えることからサラシはユーリがどこか適当な位置に放ってしまったとは分かった。
ほとんど衣服の乱れていないユーリとは対照的に、ルークはそのうち生まれたての赤ん坊みたいになるんじゃないかなぁ、とも思う。
……なんて呑気に観察できているのは目を瞑っているルークが面白かったから本当にすぐ側から覗き込んでいるからで、楽しんではいるもののいつユーリにハリセンでぶん殴られるかちょっと怖かった。
と言うか、ハリセンで済まなかったらどうしようか。


「見んなって言われても下までルークの声聞こえてたんだぜ?やらしい声出すんだな。ホールにまでは聞こえてなかったけど、ルークだってすぐ分かっちまう」
「!!」
「ま、ルークだってノリノリでユーリのちんこ咥え込んでんだし?いいじゃん、聞かせてやれよ。気持ちいいんだろ?」
「や!やだ!違う違う!!聞くなバカぁ…っ!!気持ちよくなんかなぃいい!!」
「うーそだぁ。気持ちいい筈だよ、ルークはさ。だってユーリが相手だし。好きな相手に無理強いするだけの男だと思ってんのか?俺は違うと思うけど」
「…そ、それ、は…」
「だからルークもあんなにやらしい声出してんだろ?俺だって聞こえたもん」
「やだあああ!!聞くな!聞いちゃやだぁああっ!!」


とうとう泣きじゃくりながら否定し始めたルークの姿に、思わず笑みを浮かべていたらかなり冷た過ぎる視線が突き刺さって、ほんの少しだけちょっと距離を置いてみた。
そろそろ限界も近かったらしいルークはあんまりまともな思考回路が働いていないせいか「俺だって聞こえた」と言う言葉の真意を探ることも出来ずに、ただ声を聞かれていることを否定するばかりで、ぱさぱさ揺れる髪には笑うしかない。
今までの会話の声も全部やらしい声みたいなもんだよ、と言ったら面白い反応をすると思うのだけど。そのかわり本格的に怯えて泣いてしまうだろうが。
ユーリのペニスを深くまで咥え込んでいる結合部を覗き込んだらまだユーリは一度もイってないらしく、邪魔するんじゃねーよ、と視線が訴えてはいたが、このまま酒の場所を聞いて退室するのはちょっと釈然としなかった。
と言うか、ユーリの方はきちんと意図するところを察したのだろう。展望室へ足を運んだのは、俺だけではないことに。
別にユーリが踏ん切りつけて満足してグラニデにこっちのルークを連れて駆け落ちするのは大歓迎だったが、このままアッシュが何も知らないのは良くないと思った。こういうことは当事者が決めなくてはならないことだし口出ししてはいけないことだと思うけれど、まあなんだかんだ言って肝心な時にはきっと俺はこっちに居ないだろうし、別に構わないだろうとも思う。このままではアッシュの中でルークもユーリもホモ決定となったままなのだ。
せっかくユーリがトイレだろうと倉庫だろうと所構わず行為に及んで目撃者となったルカが涙目じゃなくて赤面までしたと言うのに、肝心の人物たちに誤解を作ったままじゃ意味がない。
視線で出入り口の方を見るよう促せば、それだけでユーリは分かったのかとりあえず問答無用に牙狼撃もハリセンもしないでくれるようだった。
好きにしろ、と許可が出たと勝手に解釈して、とにかく下に居るだろうアッシュにルークの声を聞かせてみようと思う。
さすがに男の声じゃないとは、気付くと思いたいけど…なんか微妙なとこな気もしないこともない。






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