「莉子さん」





そう甘い声が莉子の耳に届く。ふんわりと優しげな笑みを携えた二口を視界にとらえ、莉子は荷物を持ったまま何の迷いもなく二口のもとへと歩み寄った。





『ごめんね堅治くん、わざわざ迎えに来てもらっちゃって』

「俺が好きでやってることなんで気にしないで下さい。荷物持ちますよ。」

『あは、紳士だなあ。大丈夫だよ、ありがと。』





ニコッと笑った莉子の隣をしっかりとキープした二口。なるべく、その距離を埋めるように近付く。莉子の肩が時折自分の腕に当たるような距離までくれば、視線だけを周りに向ける。

ここは3年棟。誰が見ていてもおかしくない。もちろん、二口にとって邪魔な彼も。





「莉子ー」





二口がそんなことを考えていた矢先、莉子を呼ぶ第三者の声が響く。案の定。そういった様子で二口が眉間に皺を寄せれば、二口の存在など目に入っていないかのようにその第三者は目の前に立ちはだかった。





「今日時間ある?」

『ごめん、約束あるから今日は無理。』

「じゃあ夏休み連絡していい?一緒にどっか行きたいんだけど、」





柔らかく笑った彼。二口は、その瞬間莉子の目が揺らいだのを見逃さなかった。

きっと先程も彼女を連れ出して、よりを戻したい、または友達からやり直したい等関係を修復したいと伝えたのだろう。それを莉子が許したのだ。だからきっと、こうして二口を無視して話を進めようとしている。

彼女の揺れる瞳は、この男にはわからないのか。はたまた彼女が隠すのが上手いのか。どちにしろ今この状況で無視されている時点で、二口が大人しく済ませられるはずなどなかった。





「センパイ、莉子さん困ってますよ。」

「……二口君には関係ないと思うんだけどな。」

「そうっスね。でも困ってるし。焦ってもいいことないですよ。」





にやっと、二口得意の挑発的な笑みは効果抜群だったようで。今にも掴みかかってきそうな程、睨みを利かした彼。そんな長身2人の睨み合いを莉子に見せないように、二口はわざと莉子を背に隠した。そんな行動ですら彼の神経を逆なでしているようだが、二口の知ったことではない。この状況に莉子が負い目を感じないようにするのが最優先事項だ。そしてあわよくば、牽制になれば。

いつかの初対面よりも、雰囲気は最悪だった。





「じゃあ、失礼します。今日は俺が莉子さん独り占めできる日なんで。」

『堅治くん、』

「莉子さん行きましょ」





これ以上彼と睨み合う必要はない。そう判断して二口が莉子の肩に優しく触れ誘導する。戸惑いがちに足を進める莉子を見てにこりと微笑めば、二口の耳元で小さな舌打ちが聞こえまた一段と笑みが濃くなった。

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