去年の秋頃。所謂"イイ雰囲気"の人物に告白されて付き合った。もちろん莉子自身もイイと思っていたからそれに首を縦に振った。思えば、これが始まりだったのかもしれない。

周りにも祝福されて羨望の眼差しを向けられ、正直悪い気はしなかった。彼の容姿も周りが騒ぐだけあって目の保養にもなり、何処に居ても"彼女"として変わらずに接してくれる。この高校生活で青春といえば、真っ先に浮かぶ出来事だろう。

それでもクラスが離れ3年生になると、その"シアワセ"が少しずつ歪みを見せ始めたのだ。





『最近鎌先とあんま話してないの聞いた?』

「…そういえば、聞いた気がします。」

『あれね、ケンカとか嫌いになったとかじゃないんだ。』





授業中に渡り廊下は目立つと、二人でやってきた体育館裏。この時間はどのクラスも使っていないそこは、サボるのにも、密会にもぴったりだ。
長時間日に照らされていないことで冷え切ったコンクリートの階段に、並んで腰を下ろす。その距離は、約0.5人分。

グラウンドで体育を行っているらしい声が遠く聞こえる中、静かなそこに落ち着いたソプラノが響く。





『あと鎌先だけじゃなくて、なんなら二口くんもなんだけど』

「俺っすか?」

『うん、男子みんな。ここまで言えばわかるでしょ?』





力なく笑う彼女。横目でこちらを見た後の伏目がなんとも艶っぽい。普段のへらっと笑う彼女だからこそなのか、二口はさっと目を逸らした。

ここまで言えば。何を意味するのか、少し言葉が足りない気がするがもちろん二口は理解している。そしてこれだけの情報で二口に伝わるほど、きっと彼にはバレているとわかっているのだろう。

やはり彼女は、よく他人を見ている。





「嫉妬、っすね」

『うん。最近めっちゃ酷くて。最初はそんなにだったしちょっとすねるくらいだったんだけどね。』





初めて長谷部と接触したあの時、うまくいっていないのだろうかとは思っていたが。その原因が嫉妬とは。予想の範囲内ではあったものの、何度か仲良く並ぶ2人を見ていた為そう振舞っていたのかと、そこまで考えてしまう。

よく聞く話だ。付き合っている期間が長くなってくるにつれ、相手の嫌なところ、気に食わないことが出てくるのは。よくあることで、至極当然のこと。それを受け入れられず別れることだってありふれた話。

そして今この瞬間に、彼女の中で何かが変わり始めている。





『2人であんま話してほしくないって言われたときは、ああ嫉妬深いタイプなんだって思って私もそう頑張ったんだよ。別に苦じゃなかったし。でも私が"聞く相手"だってわかったみたいで、挨拶とか、必要な連絡事項だけでも言われるようになってさ。』

「…結構ひどいっすね。なんていうか、思ってたより。」

『ヤバくない?まあ私も最初に素直に聞いたのがダメだったんだと思うけど。』





単に彼女が束縛されたくないタイプというわけではないようだ。行き過ぎた嫉妬が、重くのしかかっているとまた力なく笑う。笑っていてもどこか諦めたような眼をした莉子に、二口は何とも言えないような顔を作る。

二口の理想のシナリオを順当になぞっている。その事実が嬉しい手前、困り果てた様子の彼女を見るのはあまり気分が良くない。素直に喜べない、そんな心境。事実だけを聞けばほくそ笑んでいるところだが、当人が目の前に居るだけでこうなってしまって。

静かに、そのソプラノに耳を傾ける。





『周りもあんなに応援してくれるから、嫉妬がしんどいですなんて言えなくてね。愛されてる証拠とか言われそうじゃない?』

「それはありえそう。」

『二口くんは慎のこと嫌いそうだから。』

「…」

『あ、当たり?』





だから、二口には口を開いた。そういうような口ぶりの彼女は、途端に口を閉ざした二口を見て悪戯っぽく笑う。
莉子の前で長谷部と接触したのはたった一度。それでもその時の僅かな空間感で感じ取ったというのか。それとも、自分はそんなにわかりやすく顔に出ていたのか。まあどちらにせよ、彼女の言うことは的を射ている為反論はしない。無論、莉子が原因であることも言わないが。





『…愛されてるとか。私はもう、そう思えなくなっちゃったんだよなあ』





それがどういう意味を指すのか。もう答えも同然だろう。つまりは、二口が望んだ通り。

憂いを帯びたその目を、覗き込む。





「じゃあ、俺にしませんか?」





一瞬その大きな目が揺れて。それでも、驚いた様子はなく莉子はにこっと笑ってみせた。

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