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「道香さん手伝います!」
『ごめんね疲れてるのに。』
「全然です!」
練習が終わった後。日も暮れた暗くなって来たそこで、ボトルを洗う道香に駆け寄ったのは芝山。隣に並んで持ってきたジャグを洗い始める。
夏休みも終盤に差し掛かる頃で、春高予選に向けて熱量が大きくなる毎日だ。今日も今日とて自主練に励む彼らの声が体育館から聞こえていた。
『芝山も練習してきていいんだよ?』
「終わったら参加します!」
『いい子だなーホント。芝山みたいな子ばっかだったら世界は平和なのに。』
「そんなことないですよ。」
水が跳ねる音が木霊する。
確か灰羽が手伝ってくれた時は災難だったなと、げんなりした様子で言った道香に芝山が軽く吹き出す。それと同時にほんのり頬が赤くなったのは、黒尾のTシャツ事件が芋づる方式で出てきた所為だ。
第一次予選が終われば季節は秋。彼女達三年生と過ごすのも残り半年。
『芝山も合宿で成長したね。』
「いやそんな、僕なんて、」
『夜久にも言われたと思うけど、音駒でリベロって相当スゴイと思うんだよね。実際みんながレシーブ力高いわけじゃん。そこの守備専門だよ?ヤバいと思わない?』
「でもまだまだ、」
『なあに言ってんのそれは当たり前!』
「エ」
励ましに入ったかと思えば、ぱしゃりと水が跳ねると同時に勢いよく芝山を見る道香。そのぱっちりと開いた目が、まっすぐ芝山を射抜く。
その行動も言葉も全てが芝山の予想外で、彼は道香が使用している水道の蛇口をそろっと捻り水の勢いを弱めた。
『夜久はウチのスーパーリベロだもん、そう簡単に抜けるわけないじゃん。』
「道香さん気にしてることなんですけど…」
『だって芝山より2年も長く音駒のリベロしてるんだよ?そうじゃないと逆に困るね!』
何故か少しだけ威張る道香を見て、芝山が動きを止める。驚きに染まったその顔を見ないまま、道香の視線は手元で洗っているボトルに向かっていて。
きっと特別なことを言っているつもりがないのだろう。あくまでも当たり前で、自然なことだと言わんばかりの、いつも通りの声のトーン。
それが芝山には新鮮だった。
『でも2年後、芝山が同じようにいっぱい練習したら夜久みたいなスーパーリベロになれると思うんだけど。伸びしろ?』
「…そうですよね」
『そうそう。だから夜久も芝山に色々教えてるんでしょ。…っえ!?芝山どうした!?』
「ちょっと道香さんの言葉が胸にささって、」
『マジで!?ゴメン何がイヤだった!?えッ!?』
ちらりと見た時の芝山が、なんとも言えないような表情で自身を見ていた為に急に慌てだす道香。彼女としては世間話に等しいものだったからこそ、尚更慌ててしまって。
全く別の解釈をした道香に弁解をしながら、いつになく焦る彼女を見て芝山はにこっと笑った。
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