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「道香、俺今日何本?」

『えっと…今の試合は5本。疲れが出てきてるね。』

「課題だな…」

『ウチの衛輔君は完璧主義だな〜。』

「…夕か。」





レシーブミスの本数を聞きに来た夜久。この試合は最初から最後までコートを見て記録していた道香が、隅っこに書かれた小さい正のマークを夜久に見せた。

合宿三日目の夜。そろそろ疲れが出始めてもおかしくない頃。





「今日練習しよっかな。」

『なら手伝おっか?リエーフの見張りで。』

「頼むわ。昨日も逃げやがったんだよアイツ。」

『らしいね。』





夜久がそう言って眉間に皺を寄せた瞬間、遠くに居た灰羽が身体をはねさせる。どうやらそういう野性的勘だけは鋭いようだ。

今行われている生川と森然が終われば、本日の練習は終了である。洗濯などの業務を終わらせていた道香はそう約束をすると、ボトルを洗っている清水達の様子を見に外に向かう。

昼間とは違い、ひんやりとした風が頬を撫でる。





『あ、スガ君。お疲れ〜』

「桜井さん。お疲れ。清水?」

『うん。もう居ない?』

「さっきボトル洗い終わってたからたぶん中じゃないかな。」

『あ、そうなんだ。よかった。』





ペナルティが終わって涼んでいたらしい菅原。彼もこれから体育館に戻るつもりらしく、2人で肩を並べて歩く。滅多にない、というか初めての組み合わせに、菅原は内心で焦っていた。

何を話せばいいのか。いつも誰かしらが隣に居ての会話だった為に、今更そんなことを思って。

ただ相手は道香。少し話せば肩に入っていた力が抜けるのを感じ、菅原は気の抜けた顔で笑う。





『スガ君も自主練?』

「そのつもり。影山に負けてられないから!」

『いいねえ、やっぱ一生懸命だと応援したくなる。』

「桜井さんは?黒尾達と?」

『ううん、夜久と一緒にリエーフしごくつもり。黒尾のとこ居ても私役に立たないし。』





ふっと息を吐いて笑った道香を見て、菅原の頭には黒尾が浮かんで。先程もそうであったが、道香を見るとどうにも黒尾の顔がチラつきついセットで考えてしまうのだ。付き合っていないと澤村が言っていたことは覚えているものの、彼女を見る黒尾の目が周りよりも優しかったことがとても印象強く残っている所為か。

後輩である西谷の応援はしているのだが。どうにも、見慣れてしまったからか彼らが一緒に居ないことが不自然に思えてしまった。





「そんなことないんじゃないかな。きっと元気もやる気も出ると思うよ。…って、烏野の俺が言うのもなんだけどっ」

『あははっ、スガ君に言われるとそうかなって思えて来た!後で顔出してみるっ』

「絶対喜ぶと思う。…あ、次いでに西谷も見てやって。」

『ちゃっかりしてるなぁ』

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