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「ん」
短い声が聞こえ、同時に手が出される。きっともう両手で数えてもあふれてしまう程、この短い期間で何度も繰り返したその行為。道香は未だに慣れず、ドキリという心臓の音を聞きながら自分の手を重ねる。
間髪入れずに自分より一回りも大きい手に包まれ、道香はその手の持ち主を見上げた。
「ん?何?」
『何でもない』
「そうか?ドキドキしてますって顔に書いてあるけど。」
『自分だって耳赤いくせに。』
「赤くないですぅー寒いからですぅー」
『絶対ウソ』
口を尖らせた道香の頭を黒尾が優しく撫でる。その耳の赤さを指摘するのはこれで何度目か。自分が慣れていないように、黒尾もまだ少し恥ずかしいらしい。それがわかるこの瞬間がこそばゆくて、それでいて満たされて。気付かない内に道香の口元が緩んでゆく。その度に黒尾は、可愛いと道香を甘やかす。
「卒業式の前どっか遊びに行くか。」
『え、行きたい。』
「行きたいとこある?」
『どこかなー。駅前も探索したいし、ショッピングもいいよな〜』
付き合って初めてのデートだ。恥ずかしい気持ちもあるが、それよりも喜びが勝る。2人で出かけることに"デート"なんて名称がつくのだ、迷うのも無理はない。楽し気な道香が自分と行きたいところ、したいことを指折り数える姿が愛しくて、黒尾はその頭を優しく撫でた。
「制服でランド行こ。」
今まで見てきたどの表情とも違う、"彼氏"の顔。道香はブワッと熱がこみ上げるのを感じながら瞬きを数回。
確か夜久を交えてそんな話をしたこともあったか。その時は行きたいなんて言っても居なかったし、それこそ道香のお願いなら行くなんて歯の浮くようなクサイ台詞を言っていたその時。もちろん本気にしていなかったが、いざそうなればあの言葉は本気だったのかと道香の胸がまたドキリと音を立てる。
『…実は一番行きたいんでしょ』
「ハァ?おまえとなら色んなとこ行きてえっつったろ。」
『かっこいいなあー惚れちゃうわー』
「オイコラ気持ち込めろ。」
照れ隠しか、そう茶化した道香の頭をがしりと掴む黒尾。以前まで道香が黒尾に言っていたことを口にする。まさか自分がこの言葉を言われる日が来るなんて。不思議なものだと黒尾の顔を見ながら思う道香。ふと、黒尾とであればどこへ行っても楽しいだろうなんて今しがた言われたことが浮かんだ。
『私も鉄朗とランド行きたい。あと他も。』
「…ばッ……」
『制服も今しか着れないもんね。せっかくだしそうしよう。』
「〜〜〜〜ッか!!コロス気かコラ!」
『えっ何意味わかんない』
「急にさらっと名前呼ぶな!心臓止まるわ!」
『ええっ』
「開園から閉園まで遊び倒すぞ!」
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