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入学当初。同じクラスの夜久に誘われて見学に行ったのがきっかけだった。どの部活に入るか決めあぐねていた道香に、"一緒に全国行くぞ"なんて、熱のこもった目で言う黒尾。絆された、という表現が正しいか。ルールすらまともに知らなかった道香の青春は、そこから始まったのだ。





『烏野も調子上げてきましたね。』

「やっぱサーブも強烈になってやがる…」

「…そうだなあ。そろそろタイムアウトとろう。」





第二セット序盤。後半へと守備を整える音駒にセットを奪われても、烏野の勢いは止まるどころか増すばかりだ。長いラリーでいつもの何倍も疲労が襲い掛かってはいるだろうが。

戻ってきた彼らはいつも通り"脳"である孤爪を中心に策を練る。

コート移動の時の黒尾の言葉をしっかりと覚えていた道香が黒尾の背中を見た途端首を横に振ると、隣に居た芝山が首を傾げた。





「研磨」

「……止めて、その単語だけは止めて。」

「根性見してこうぜえ!!」

「アッチ行け!」

『仲良しだね〜』

「道香!笑ってないでなんとかして!」

「いいぞいいぞ、もっとやれ〜」





邪念を振り払わんばかりにベンチでじゃれる孤爪と山本に茶々を入れ、道香は隣に立った黒尾を盗み見る。いつも通りで、全く変わらない黒尾。自分の気にしすぎだと思うも、あまりにも暢気に笑っているものだからついムカついてしまって。

口を尖らせた道香が不意に黒尾の腕を抓れば、今度はそれを目撃した夜久が煽り始めた。





「痛ェ!道香チャン!?」

『なんかムカついた。』

「ハァ???」

「いいぞ道香もっとやれ〜」





試合再開のブザーが鳴った為に、黒尾の絡みは強制的に終わりを告げる。

道香はあの時より何倍も大きくなったその背中を、強く押した。

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